
「日立」と聞いて、多くの学生がまず思い浮かべるのは、家電や総合電機メーカーとしての姿かもしれません。今回お話を伺った3人のデザイナーも、就職活動を始める前は「家電をつくっている大きな会社」というイメージしか持っていなかったと口を揃えます。
けれど、いま彼らが向き合っているのは、店頭に並ぶ製品ではありません。病院の検査室で使う医療機器のUI、自治体の職員が使う行政システム、そして大阪・関西万博のパビリオンや経営幹部の情報発信。扱う領域はさまざまですが、その先にあるのは人の健康や社会の現場、そして未来そのものです。株式会社日立製作所は、2020年にまとめたデザインフィロソフィー「Linking Society」で、個々の製品やサービスの品質にとどまらず、社会の中に自然なつながりを生み、人々の幸せをかたちづくることを掲げています。
お話を伺ったのは、研究開発グループのデザインセンタで働く若手デザイナー3名。ヘルスケア領域を担う八木さん、行政や研究開発の可視化に携わる大庭さん、コミュニケーションデザインを手がける森さんです。3人が「家電メーカー」というイメージからどう出会い直し、「何をデザインしているのか」という問いへの、等身大の答えを聞きました。
八木 あすか(Asuka Yagi)|株式会社日立製作所 デザインセンタ UXデザイン部
2023年入社、現在4年目。千葉工業大学創造工学部デザイン科学科にてUI/UX・プロダクト・インテリアなどを幅広く学び、大学院ではデザイン科学専攻で情報デザインやUI/UXをプロジェクトベースに学ぶ。入社以来UXデザイン部に所属し、ヘルスケア領域を担当。(2026年7月時点)
大庭 楓花(Fuka Oba)|株式会社日立製作所 デザインセンタ UXデザイン部
2024年入社、現在3年目。芝浦工業大学デザイン工学部でロボティクスや情報デザインを学ぶ。現在は行政・公共分野を中心に、業務システムや自治体向けシステムのUI設計、建設機械のGUI、研究開発中の技術の可視化などを幅広く担当。(2026年7月時点)
森 真柊(Mashu Mori)|株式会社日立製作所 デザインセンタ ストラテジックデザイン部
2023年入社、現在4年目。東京藝術大学でグラフィック・プロダクト・映像などを幅広く手がけ、修士ではUXデザインを専攻。入社後2年間はUXデザイン部ユニットでサービスデザインに携わり、大阪・関西万博のパビリオンなどを担当。現在はコミュニケーションデザイナーとして経営幹部の情報発信支援や顧客協創でのワークショップの設計・ファシリテーション・ツールのデザインなどを担当。(2026年7月時点)
八木さん:正直に言うと、日立自体は「家電をつくっている会社」くらいの印象しかありませんでした。最初の接点は、大学院の授業で日立のビジョンデザインのワークに取り組んだこと。信頼をいろいろな切り口から考える内容で、面白かった反面、すごく難しかったですね。その後、説明会でモビリティの話を聞いて、「そんなこともやっているんだ」と知ったくらいです。
大庭さん:私も八木さんと一緒で、昔からある大企業で、堅実にものをつくっているんだろうな、というパブリックイメージをそのまま持っていました。ただ、ReDesigner for Studentさんの企業説明会を見たり、日立デザインのサイトを覗いたりする中で、家電だけじゃなく、一般のユーザーが使わないような分析システムや社会インフラまで幅広くやっているんだ、となんとなく掴んでいきました。
森さん:僕も最初は「家電をつくっている大きな会社」というイメージでした。転機になったのは、就活の相談をしに行った大学の教授に「君みたいな研究的な活動が好きな人は、ここがおすすめだ」と日立を勧められたこと(笑)。デザイン誌『AXIS』の特集で、鉄道も医療機器もやっていて、研究所と一緒にいろいろ動いていると知って、面白そうだなと思いました。
八木さん:インターンで一緒にワークをした先輩社員の方々が、とにかく面白い人たちで、そこに惹かれていきました。学生が出したアイデアに対して、社員の方同士で「いや、こうでもない」と面白がりながら一緒に考えてくれる。その姿勢がとても良い人たちだなという印象が強く残っています。
大庭さん:私が惹かれたのも、人でした。インターンはオンラインだったので雰囲気は掴みにくかったのですが、社員の方々がオンラインなのに本当に仲良さそうに話していて。オンラインであれだけ仲が良いのは、よほどのことだなと思って、この人たちと働きたいと素直に感じました。
森さん:ちょうどコロナが明け始めた頃だったのですが、まだオンライン面接が主流な中でも日立は面接を対面で行ってくれました。就職活動を通して、直接顔を合わせてお話しできたことも、今振り返ると良かったと感じています。
八木さん:日立には「協創の森」という研究開発の拠点があるのですが、入社前は本当にそんな場所があるのか半信半疑でした(笑)。コロナ禍の就活時に見た「協創の森」の紹介動画が、ドローンが飛んでいるような映像だったので、まるでバーチャルの世界みたいで。実際に行ってみたら本当にあって、自然も多くて。「東京にもこんなところがあるんだ」と驚きました。
日立製作所 研究開発グループのYouTubeチャンネルより
大庭さん:1年目から、本当にいろいろな仕事を任せてもらえたことです。自治体とのワークショップに関わったり、業務システムのプロトタイプをつくったり、建設機械の遠隔リモコンのUIを手がけたり。1年目からこんなに任せてもらえるんだと驚きました。2年目までは指導員の方がついて二人三脚で進められるので、すぐ相談できて、挑戦しやすい環境が整っているのも意外でした。
森さん:入社前は、『AXIS』で見た仕事が日立のデザインそのものなんだと思っていました。でも入社してみると、それは事業全体から見るとほんの一部だったんです。
それから、上の人たちの言うことが良い意味ですぐ変わる。大企業だから意思決定が遅いのだろうと思いきや、毎年すごい勢いで事業が変わっていく会社でした。
八木さん:情報を追いかけていくのが大変で、正直、まだ追いつけていないくらいです(笑)。
八木さん:私は、病院の検査室で使う分析装置や、病院で使うシステムのUI/UXデザインをしています。直接的には検査室で働く検査技師さんの仕事につながっていて、その先には患者さんの命や安心がある。巡り巡って、その人たちの生活に循環していく仕事だと思っています。


大庭さん:私は、自治体の業務システムや、建設機械のGUIなど、現場の方が迷わず判断や操作ができる画面をつくっています。 働く人の環境を支えるデザイン、という感覚です。
まだプロトタイプ段階のものが多いのですが、現場に実装される時には、使う方が迷わず判断や操作ができるものになり、その先で人々の生活が良くなればと思っています。
森さん:僕がやっているのは、複雑なことを簡単にして伝える仕事だと思っています。ワークショップでバーッと発散したものを「こういうことですよね」と収束させたり、経営幹部の発信を支えたり。幹部の発信って、いろんな部署の意見を整理して終わりにするのではなく、相手が「じゃあこう動こう」と思えるようなストーリーや戦略を練って伝える。それが、今の自分に求められている役割なのかなと感じています。
八木さん:そうなんです。1年目に手がけたものがあと2年ほどでリリースされる予定で、いま設計しているものは、順調にいけばあと3年くらい。場合によっては10年近くかかることもあります。だから、社会に届いた実感はこれから、という段階ですね。
八木さん:正直、「蓋を開けたら、ここだった」という感じでした(笑)。
森さん:僕も最初の配属は予想していませんでした。ただ、入社2年で部署を異動していますし、行ったり来たりしている方もいます。ずっと同じ部署にいる人はあまりいない印象ですね。
最初の配属がすべてを決めるわけではなく、その先で対象領域が広がっていくのは、この会社らしいところだと思います。長く別の部門にいた方が、デザインに移ってくるようなこともあります。
※関連記事:数年おきに見える世界がガラリと変わる。家電からインフラまで——日立デザイン組織の多彩なキャリアパス
八木さん:どんなに高機能な技術があっても、使う人にとって難しくて分からなかったら意味がないですよね。研究者や設計者の方から「こういうことができるんですけど、何とかなりませんか」と相談をいただいて、では、ユーザーさんにどんな提供価値を持たせればその技術が活きるのか、を一緒に考える。技術と人との間をつないでいくことに、自分の価値を見出そうとしています。
いま手がけているのは既存製品の新しいバージョンなので、既存のユーザーさんが抱えている課題を聞きながら進めています。ただ、その声は直接は見えづらく、マーケティング部の方を通して把握している部分も多い。そこは深掘りしきれていないという課題も感じています。
八木さん:面白いのは、一般向けの製品と違って、プロが使う画面には専門業務ならではの要件があること。複雑だからこそ難しい画面にしたいわけではなく、その複雑さの中で、ちゃんと使いやすいものをつくる。一般には見えにくい領域だからこそ、そこにやりがいがあります。
自分が提案したデザインが実機の上で動いているのを見たときは、まだ製品になっていなくても「これが形になっていくんだ」と思えて、本当に嬉しいですね。

大庭さん:本当にユーザー視点の画面になっているか、そして、なぜこのデザインにしたのかを論理的に説明して納得してもらえるか。この2つは、対象が変わっても一貫して大事にしています。
たとえば屋外で使う小型の端末なら、実機に近いサイズの画面を用意して、日差しの下でも見やすいか、操作しやすいかまで検証します。自治体向けのものなら、つくったプロトタイプを職員の方に見てもらって、「このグラフで分かるか」「もっとこう見せてほしい」といった声をヒアリングして、デジタルに慣れていない方でも使えるように近づけていきます。

大庭さん:研究開発の可視化では、研究者のこだわりを守りながら、一般の方に伝わる形に整理することが一番求められていると感じます。研究者の方は技術に誇りを持っていて、より良く、正確に伝えたいけれど、大げさな表現は避けたいという思いがあります。ただ、その情報をそのまま画面に載せるだけでは伝わりきらないので、何度も打ち合わせをして、どこが本当に重要かを整理していきます。
面白いのは、議論の後にイメージの画面を作って見せると、研究者の方自身が「こっちの方が分かりやすいかも」と言ってくださることが多いんです。依頼元の研究者の方に「いいね」と言ってもらえることが、やりがいに繋がっています。
大庭さん:知らないことを知ることができることが、両方の面白さです。自治体がどうやって政策を考えているのか、どんなデータを見て判断しているのかは、普通に暮らしているだけでは分かりません。ビジョンを考えるときは、一から課題を整理して、「こういう変化があったらいい」「こんな未来があったらいい」を、答えのない中で職員の方と議論しながら形にしていく。
UIは使いやすくするというゴールがありますが、ビジョンには正解がない。その難しさと面白さの両方があります。

森さん:万博に展示するとなると、社内からは「この技術を」「この事業を」「この製品をアピールしたい」というものがたくさん出てきます。でも来場者は、日立の技術を知るために来ているわけではありません。興味の入口がない人にも「面白い」と感じてもらいながら、伝えたいこともきちんと伝える。その接点をつくることが一番難しかったです。
その一方で、連携した社外の方や、社内の経営層など、立場も使う言葉も違う人たちに「この展示にはこういう価値がある」と説明し、納得してもらいながら進めるのも大変でした。
家族を連れて万博に行ったとき、「すごいことをやっているんだね」と言ってもらえて。2年ほど携わってきたプロジェクトが世に出たことを実感できて、うれしかったです。

森さん:事業のエキスパートも、技術を見る研究者も、お客様も、大学の方も集めて、みんなでどう未来をつくるかを一緒に形にしていく。ニュースで取り上げられるような社会問題には、実際に困っている人たちがいます。そうした方々への解決策を一緒に考えていけることが、この仕事の一番面白く、価値のあるところだと思っています。
難しいのは、人によって「未来」が何年後なのか、「コンセプト」がどの粒度なのかの認識が違うこと。まずはそこをすり合わせるところから始まります。
森さん:ケースバイケースですが、デザイナーが前に出るべきときと、黒子に徹するべきときがあります。その使い分けを意識しています。ワークショップでは、参加者の発言が思いつきのこともあれば、組織としての立場を背負った発言であることもあります。そのため、言葉だけではなく、その背景にある意図まで汲み取りながら議論を整理しています。
たとえば、とある企業の保守点検の未来を考えるワークショップでは、立場の異なる参加者の意見を整理し、最終的には提言書としてまとめて経営層への報告や次のプロジェクトにつなげています。

八木さん:やりたいことがなくて、どこを目指して何をすればいいのか分からなかったのが一番の不安でした。答えが出せたわけではないのですが、とにかくいろいろな場所に行って人の話を聞いて、違うと思ったらすぐ切り替えて、また挑戦してみる。その繰り返しで進んでいきました。
大庭さん:私は工業大学の出身で、就活のライバルが美大生になるんです。グラフィックの力も作品数もなくて、すごく焦っていました。
乗り越え方は2つあって、1つはインターンに参加して自分の立ち位置を知ったこと。美大生のすごさにショックも受けましたが、理系らしい課題を見つける力や、論理的に整理して解決策を導く手順は、工業の方が強いと気づいて、そちらを伸ばそうと思えました。
もう1つは、自信がないなら人に見せるしかないと、教授や先輩にアドバイスをもらって、ポートフォリオを磨き続けたことです。
森さん:僕は2人に比べると程度の低い悩みなんですけど……ダブルブッキングをしないか、が本当に不安でした(笑)。3社も4社も並行して履歴書やポートフォリオを出して面接をして、学生時代とは密度が全然違う日々だったので、何度もカレンダーを確認していました。
森さん:新しいことや知らないことに直面する場面が多い会社なので、その変化を楽しめる人と働きたいです。応援メッセージは苦手なんですけど……最後は「なるようになる」。あまり気負いすぎないでほしいですね。
八木さん:幅広いことをやる会社なので、いろいろなことに興味を持っている人と一緒に働きたいです。
最近の新入社員は、自分でアプリをつくっていたり海外経験が豊富だったり、本当にいろいろな経験を持っていて刺激を受けます。学生のうちは、趣味でも何でも、興味の赴くままに挑戦してみてほしいです。それと、インターンは体力勝負なので、健康第一で頑張ってください。
大庭さん:分からないことを、みんなで一緒に試行錯誤できる人。そしてフラットに意見を言い合える人が、日立のデザイナーには向いていると思います。選考でも、絵を描くスキルより、その人らしい考え方や、してきた経験、興味を持っていることを見てもらえていた実感があります。
学生の時間は自由だからこそ、いろいろ吸収して経験してほしいですね。私もコロナ禍で学祭の企画や海外研修に挑戦した経験が、今の仕事の糧になっています。仕事に役立つかどうかを気にせず、できることにはぜひ挑戦してほしいです。
※関連記事:ポジティブなお節介で「やってみたい」を後押しする。“新しい”に関わり続けられる、日立デザイン組織

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この記事を書いた人

ReDesigner
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