
今回インタビューをしたのは、NTTコミュニケーションズ デザイン部門「KOEL」所属のHead of Experience Designを務める田中 友美子さんです。
イギリス・ロンドンに位置する世界トップクラスの美術大学、RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)への留学後、Nokia(ロンドン)・Sony(サンフランシスコ)などグローバルにデザインの最前線で活躍されている田中さん。そんな田中さんの、デザインとの出会いから現在のキャリアに至るまでのストーリーを伺いました。
田中 友美子(Yumiko Tanaka)| NTTコミュニケーションズ デザイン部門「KOEL」 Head of Experience Design
ロイヤル・カレッジ・オブ・アート インタラクション・デザイン科修了。ロンドンとサンフランシスコを拠点に、Hasbro、Nokia、Sonyなどの企業でデバイス・サービス・デジタルプロダクトのデザインに携わり、デザインファームMethodでデザイン戦略を経験した後、NTTコミュニケーションズのデザイン部門「KOEL」の Head of Experience Design として、愛される社会インフラをデザインしています。
出身は東京都です。両親がグラフィックデザイナーとして小さなスタジオを営んでおり、幼い頃からスタジオについて行っていました。当時はパソコンやコピー機がなかった時代だったので、父は印刷用の版下なども手作業で作成していたんです。今の時代と比べると、印刷イメージを確認するためのプレビュー画面がなく、修正も行いにくい。非常に職人的な作業だったと思います。
文房具が大好きだった私はそれを見て、「綺麗な画用紙に、良い色鉛筆で絵が描けるんだ」と憧れたことがきっかけとなり、デザイナーに興味を持ち始めます。週末は家族で美術館に訪れたりと、グラッフィックデザインが身近な環境だったということもあり、武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科に入学しました。
学部2年生の頃、大学でジョン・マエダさんの特別講義が開催され、インタラクティブなミニゲームや、外的なインタラクションによってビジュアルが変化する創作物を披露してくれたんです。当時のグラフィックデザインはプリントメディアが主流だったので、「コンピューターでグラフィックを作成するとはこういうことなのか」と衝撃を受けました。
特別講義を受け、コンピューターグラフィックにおける外的なインタラクションデザインに興味を持ち、卒業制作ではモノの組み合わせやアクシデンタルな要因によってビジュアルが生成される作品をjava言語で制作したんです。

武蔵野美術大学時代の卒業制作風景
当時は就職氷河期だったので、新卒採用の枠が少なかったんです。逆に、経験者の中途採用といった枠がかなり確保されていました。実は、就職をするのではなく、留学に行きたいと考えていたのですが、社会人経験がないまま留学から帰ってきた際に、働き口が見つかるかどうかが不安だったんです。なので、新卒として社会人経験を積んでから留学しようと決めました。
エディトリアルデザインや、雑誌という時代を閉じ込めるツールにも興味があったので、アレフゼロ(現 株式会社コンセント)というエディトリアルデザインの会社に新卒として入社することに。
業務内容としては、ファッション雑誌anan(アンアン)のレイアウトなどを担当していて、2年間ほど勤めた後に、RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)のインタラクション・デザイン科に留学しました。実は、スペキュラティブ・デザインで話題のアンソニー・ダンがRCAのデザインインタラクション学科の主任教授に就任して以来、初の卒業生なんですよ。
日本では、生徒が受動的なスタンスでも先生は何かを教えてくれますよね。しかし、RCAでは何も教えてくれないんです(笑)。入学すれば何でも教えてもらえるという姿勢自体が間違っていたということに気づきます。

RCA時代の田中さん(画面右奥)
RCAは何かコトを起こしたい学生へのサポートが手厚いんです。有識者の方々へと繋げてもらえたり、アドバイスをいただけたりと、真の学校の使い方を知ることができて衝撃的でしたね。また、コースメイト間のフィードバックや相談で交流を深められたことは、今でも大きな財産となっています。
”人々の当たり前の日常生活を楽しくする”というテーマで、「Plable」というテーブルを制作しました。テーブルの裏側に子供の想像の世界があって、200個以上のセンサーにより、表面の動作が裏側にも反映されるテーブルなんです。

田中さんがRCAの卒業制作で作成した「Plable」
そもそも私はグラフィックデザインを専門としていたので、テーブルの制作経験はありませんでした。0からマテリアルを決めて、買って、組み立てて、失敗して、やり直す。全身全霊の力を使って全てをやり切った経験は今でも自信に繋がっています。
ここまで来たら海外で働きたいと思い、玩具メーカー Hasbroに入社しました。テクノロジーを元に、未来の遊び方のコンセプトを考える部署 R&Dチームにて、初めて本格的なユーザーリサーチを行いました。近隣の子供たちを招待して、ゲームを体験してもらい理解度を観察したことは楽しかったです。その後、Forpeopleというエージェンシーにフリーランス的に2ヶ月ほどジョインして、Nokiaに入社します。
ロンドンのオフィスのService & UI Designという部署にシニアデザイナーとして入社します。4〜5人でチームを結成して、リサーチフェーズ・コンセプト設計フェーズ・プレゼンテーションを3ヶ月間のスパンで行うプロジェクトを担当することが多かったです。リサーチフェーズでは、リサーチ部門の方々と共同で取り組み、リサーチプロポーザルの描き方などを専門的に学ぶことができました。
サンフランシスコに拠点を持つソニー クリエイティブセンターからのオファーを承諾する形で転職します。当時Sonyは、PlayStation 4を世界的に展開する前段階で、グローバルでも通用するプロダクトを作る上で、海外の視点を取り入れるために、サンフランシスコにも拠点を配置していたんです。
私は、システムに関する議論や、基本設計の構築に対してインタラクションデザインの視点から関与しました。また、アメリカのメンバーと日本のメンバー間におけるコミュニケーションの中継ぎ役としての働きも意識していましたね。
ビザの有効期限の関係もあったので、Sonyの仕事をロンドンからリモートで行うことにしました。既に5年ほどSonyに在籍しており、「個人的なスキルは付いているのだろうか」、「今後の人生もこのままデザイナーとして歩むことができるのだろうか」といった漠然とした不安を抱いていたんです。すると、ロンドンの友人からデザインコンサルティング会社 Methodに誘われたので、「個人のスキルを高めるために多種多様な挑戦がしたい」と思い、デザインジムに加入するような感覚で転職を決意しました。

Method在籍時、TRUST/2030に取り組む田中さん
Methodでは、これまでのキャリアで培ってきた経験を活かしながら、新たな方法を模索するということを意識して、デザインストラテジーを中心に担当しました。エグゼクティブワークショップを開催したり、Hitachiさんと実施した、未来の信頼のかたちを探索する TRUST/2030というプロジェクトでは、スペキュラティブ・デザインを応用したりと、様々な経験を積むことができました。Methodのメンバーはより良い方法を探すことに前向きな方が多く、そういったマインドセットは凄く勉強になりましたね。
様々なタイプのプロジェクトに多く携わることができるので、スピード感とプロセス理解を身に付けることができました。事業会社では、1つのプロジェクト期間が長いため、途中でプロセスを変更することが難しいですよね。しかし、デザインファームで携わる短期間かつ関係者が少ないプロジェクトでは、フレキシブルにプロセスを変更して良い方法を模索することができます。Learning by Doingという観点では非常に魅力的でした。
大きく心がけていることが2つあります。1つ目は、今までの経験の上に新たなキャリアを積み上げていくということです。これまで様々なことに挑戦してきましたが、1から戻ってやり直すといったことはせずに、キャリアを積み上げていくことを意識して新たな選択を行ってきました。
2つ目は、意思決定の前段階でキャリア選択における目的を持つということです。転職先の会社で何を成し遂げたいのかや、何を学びたいのか、といった目的を持った上でその目的に当てはまる選択をするべきだと考えています。
また、転職活動の際はスプレッドシートを用いて、自分が大切にしている価値観を洗い出し、定量的にオファー先の会社と現職を比較検討していましたね。声をかけていただいた嬉しさが優先してしまうと、適切な意思決定ができないんです(笑)。入社する際の目標と価値観がマッチしていると判断した上での選択であれば、自分の中の許容範囲が広がる気がしています。

Methodで働いていた時の田中さん
新型コロナウイルスの影響によるイギリスのロックダウン期間に、このままイギリスに滞在するメリットと日本に帰国できないデメリットを比べました。Sony時代は年に数回ほど帰国しており、日本で暮らす家族と過ごすことが出来ていたのですが、ロックダウン期間だと帰国することができないということもあり、ワークライフバランスの観点から、帰国を決意しました。
17年間ほど海外で活動をしていて、日本で働くことができるのか不安だったので、様々な知り合いと1on1をセットアップして相談に乗ってもらいました。そこでKOELを紹介され、インフラ系のプロジェクトを行っているということ、新たな組織の立ち上げフェーズであるということに興味を持って入社しました。
私は、"人々の当たり前の日常生活を幸せにする"ことが私のデザイナーとしての使命であると考えています。インフラはすごく地味だけど、皆の日常生活のクオリティを上げることができる。そういった特徴が私のデザイナーとしての使命感とマッチしたんです。

また、個人レベルでは成し遂げることが難しい大きな規模感であるということも魅力の一つです。Sony時代でも、自分が手掛けたシステムUIが数億人の方々に触れられたことは、面白くやりがいがありましたね。
様々な組織に所属してきた中で、デザイナーとしての経験やスキルが溜まってきていることを実感していました。しかし、組織の設計や立ち上げ段階を経験する機会というのは、あまりないことなので、挑戦してみたい気持ちになりました。
KOELの関係者の方々とお話を重ねる中で、「組織としてのデザイン経験が浅い」ということや「デザイナー人材がまだ少ない」といった相談を受けたんです。そこで、私の今までの経験や引き出しを組織に対して還元することができると考え、入社を決意しました。
新しい組織ということもあり、皆デザインにパッションを感じていて学習意欲が凄く高いです。それに対する学習環境の提供といった会社のサポートも手厚く感じています。

KOELは本当に優しい世界なんです。海外では、自分の存在価値を証明し続けるプレッシャーが組織に蔓延していました。そのおかげでスピード感や効率性は向上するのですが、組織の空気に競争的な緊張感がありました。今のKOELの優しい空気感を大切にしたまま、組織を成長させていきたいと思っています。
現在、メンバーのポータブルスキルや熱量は高いものの、組織内にデザインスキルのばらつきがあるので、足並みを揃えるためにもボトムを上げていく必要があります。その上で求めている人材としては、サクッとお手本となるアウトプットを提示することができるといった、実装スキルがある方ですね。
NTTコミュニケーションズ全体にもデザインの重要性を感じてもらうために、デザインの土壌を築き上げたいです。今までは、デザイナーに囲まれて活動してきたのですが、KOELはまだデザイン組織の立ち上げ段階です。非属人的なデザイン組織の形成や価値観の浸透に挑戦したいと思っています。

自分がデザイナーになった理由・使命でもある、"人々の当たり前の日常生活を幸せにする”ことに一貫して体現したいです。100人の方に「超良いね」と言っていただけるよりも、1億人に「まあまあ良いんじゃない」と感じていただける方が難しい。そういった所に、マスを対象にデザインすることの面白さや、社会に対して影響を与えているという実感が湧きます。
5年後、10年後を見据えた時にどんなデザイナーでありたいかを常に自分に問い続けることが大切です。デザインは幅広いため、具体的にどんなデザインスキルを武器にしてデザイナーとしての道を進んでいくのかを考えるべきだと思います。
また、自分の興味・関心領域に対して失敗を恐れずに挑戦することです。転職したいのであればするべきだし、留学したいのであればするべき。向き不向きよりも、一度挑戦してみたという経験が大切です。意外と思案ばかりするよりも、実際にやってみて学べることの方が多いんですよ。後悔のない人生を歩んでください。
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この記事を書いた人

ReDesigner
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