
今回インタビューをしたのは株式会社ZeBrandの近藤さゆりさんです。
近藤さゆり(Sayuri Kondo)| 株式会社ZeBrand 共同創業者兼デザインディレクター
2009年に株式会社リクルートコミュニケーションズにディレクターとして入社。2012年から桑沢デザイン研究所に通いながらフリーランスを経験し、2013年に株式会社タイプバンクに転職。タイプデザイナーとしてフォント制作に従事し、2017年から株式会社モリサワで新規事業部においてデザイン全般を担当。2019年に事業ごとスピンオフし、現在は株式会社ZeBrandの共同創業者兼デザインディレクターとして活躍している
タイプデザイナーとしてのバックグラウンドを持ち、事業やプロダクトのブランドを作り上げるデザイナーの近藤さん。事業に並走するデザイナーの役割や必要なマインドセットについてお話を聞きました。
3人兄弟の末っ子として幼い頃から兄弟の背中を追いかけて過ごしました。小学校の頃は活発で友達と基地を作ったり魚を網で仕掛けたりして遊び、家では歳が近い兄の影響でテレビゲームをしたり少年コミックスも読んだり。そのほかイラストを描くことも好きで、流行りのゲームキャラクターや鳥図鑑を模写したりもしましたね。
中高生の頃はハンドボール部で、生活のほとんどを部活動で過ごしました。その影響もあって、大学はスポーツ学部に入学しました。せっかくなので運動部に入ることも考えましたが、これまでとは違う生活がしたいと思って新しいことを探すことにしました。
部活には入らないと決めたものの、主体的に動かないと大学生活は何も始まらないですよね。そうと気づいて焦りが出始めた頃、学園祭を運営する実行委員会の募集があったんです。話を聞きにいった時に宣伝で人目を引く広報に憧れたこともあって、看板やパンフレット、フライヤーを作る広報の制作チームに所属することになりました。高校時代にクラスTシャツを作ることはありましたが、初めて踏み入れた本格的な制作の場。気軽に入ったチームでしたが、ここでAdobeのIllustratorに初めて触れることになるなど、私にとっては大きなきっかけになりました。
その頃は、広告クリエイティブの人気が高まっていたり、有名なクリエイティブディレクターの方がテレビに出たりと、デザイナーという仕事が一般的になり始めていたように感じます。当時は独学なりにデザインの情報を集めていたので、そんな最新の情報に触れながら、「良いデザイン」についての自分なりの概念を持つようになっていきました。進級して、学園祭の実行委員会で制作チームのチーフになった責任感もあったのか、後輩向けにIllustrator講座を実施したり、チームのメンバーに自分の考えを共有したり、デザインへの意識が高い学生でした。今思えば細かすぎるような細部までこだわりを持って真剣にデザインしていましたね。
またフリーペーパーを作る学内サークルにもデザイナーとして参加し、雑誌制作のために企画を立ててデザイン制作やライティング、さらに広告を取ってくるという編集の一連の流れを経験できたことは貴重でした。
気になるところはジャンル構わず、就職先を探しました。デザイナー枠を志望したこともあったのですが、ポートフォリオの作成の仕方がよくわからない状態で内定をもらうことは、とても困難で。時には美大生との差も感じて、高校生のうちから美大という選択肢を持っていれば良かったと後悔することもありましたね。
それでも好きだったものづくりやデザインに触れることができる場所を探していたところ、リクルートコミュニケーションズに出会って、結果的にはデザイナーではなく制作ディレクターという形で就職しました。
私が経験したディレクターの仕事は、営業の方が受注された案件について、広告として掲載する内容の訴求すべき点を明確にしてコピーライティングを作って、デザイナーをディレクションして入稿する一連の制作業務を担当していました。デザイナーをしていた大学時代とは違ってディレクターという役割だったので、大量にある原稿のなかにデザインで気になる点があっても、制作フローの都合上、自分で直接データを動かすことはできず、デザイナーに依頼をして修正してもらわないといけない。自分でやれるなら細部までこだわりたいところでも、相手の立場を考えてしまって指摘しにくい、など自分自身が直接手を動かせないことで心理的な負担を感じることも時々ありました。
またディレクターという立場上、新卒というまだまだジュニアな立場にも関わらず、プロのデザイナーに向けてデザインのディレクションをしていくことに違和感を感じたり、どこまでがディレクターでどこからがデザイナーなのかという線引きにも戸惑いがありました。今思えば、さほど本質的ではないことで戸惑っていたなと思いますし、ディレクターの役割も今なら理解できますが、当時は折り合いをつけるところが難しく感じる機会が多かったです。
こうした悩みがでてくる中で、私はディレクターにいるよりも、実際に手を動かすデザイナーとしてものづくりをしていく立場にありたいという想いに気づき始めました。
そして本格的にデザイナーへの関心が強くなった頃に東日本大震災があって。これを機に「やりたいことをやらなくては」と大きく背中を押されて、就職活動の頃から美大コンプレックスを感じていたこともあって、会社を辞めてデザインに向き合うことにしました。
そもそもデザインが面白いと思ったのは、生態心理学やアフォーダンスという概念に興味を持ったことにありました。だから、これを学ぶことができる場所を大学院からデザインの専門学校まで幅広く探していました。どちらも学べること自体はとても魅力的でしたが、学びを通して何ができるようになっていたいかを考えたときに、学び続けるだけでなくデザインとしてアウトプットする力をつけたいと思い、桑沢デザイン研究所の夜間コースに2年間、週5日で通うことを決意しました。
学校が始まってから1年間は、昼間は派遣社員として働きながら通学をしていましたが、日々課される制作との両立が難しくなり、「今は学業に集中しないともったいない!」と派遣社員も辞めて制作に専念することにしたんです。
デザインという概念自体に興味があって入学したので、どの分野の授業も基本的に新鮮で面白かったのですが、課題を制作していくうちに、どのデザインでもほぼ必ず使われている「文字」という存在が気になり始めました。文字を上手に扱えているか否かでデザインの良し悪しに大きな影響を与えていることを強く感じて、文字を理解して扱えるようになることは、デザインそのものの理解にもつながって、良いアウトプットを作れるようになるのではないかと思ったんです。
また、ポスター制作などの大きな白紙上に回答が無限大にあるような気分になるグラフィックデザインの課題は苦手意識があったのですが、エディトリアルデザインなどの文字という素材がある前提の課題の場合は、情報の順序を整理して全体を細かく整えていくという作業は全く苦ではなく、むしろ楽しかったので、より魅力的に感じたのかもしれません。
私は好奇心旺盛な性格なので「どうしたらもっと文字の世界を知ることができるのか」というのを調べてみたんです。すると、文字を作っている会社があることを知りました。そのような会社自体が少なかったので、Webサイトのお問い合わせフォームから直接連絡をしてみたところ、ちょうどデザイナーの求人を出すところだったようで、専門学校に在学中からアルバイトとして参加させていただき、卒業後少し経ってから、正社員として就職することが決まりました。
そんな風に入社してから、改めてタイプデザイナーのキャリアを知って驚きました。タイプデザイナーは4,5年ではまだジュニアで、キャリアを数十年積み重ねてやっとベテランと考えられるような世界でした。実際にベテランの方に文字をチェックしてもらうと、一気に座りが良くなったり、明らかにバランスが整ったりするので、日頃のフィードバックから経験値を実感することも多かったですね。

入社から約4年後、タイプバンクがモリサワに吸収合併されることになったことで、モリサワの社員になりました。元々私がタイプバンクに入社した時点でモリサワの子会社だったことや、日頃からモリサワのフォントに携わる仕事を受けていたこともあり、合併にそこまで大きな違和感はありませんでした。しかし合併から1ヶ月半でZeBrand代表の菊池から誘いをもらって、ZeBrandの前身であるモリサワの新規事業の部署に異動になったんです。
もともと菊池とはタイプバンクの頃から交流があり、私が「有名アプリのフォントが充実していない、新しいフォントを作りたい」と熱意を持って話したことを覚えていたようで。ぜひ新規事業でデザイナーをしてくれないかと声をかけてもらいました。
事業立ち上げ後にメンバー全員で色々なアイデアを模索した結果、事業としてWebサービスを作ることが決まりました。事業が決まって稼働し始めるチームの中で、できる役割を拾っていった結果、デザイナーは私しかいなかったので自然とブランディングなどのデザイン全般の担当になっていましたね。
それで現在はタイポグラフィだけではなくて、デジタルプロダクトデザインのディレクションや、ブランドデザインコンセプトをまとめて様々な媒体で使われるグラフィックに落とし込んでいくブランディングデザインまでやっています。

ブランドを作るプロセスの中で「このブランドはどう認識されたいか、どんな性格なのか」などブランドの性格のような情報を考えるのですが、それはフォントのデザインを考える工程にも共通しているところがあるなと感じます。これまでと異なる領域のデザインをしていますが、タイプデザイナーとして培った知見を直接活かすことができるので、やっていて良かったなと感じる機会は多いですね。
そしてブランディングの中でのタイポグラフィは、重要な要素のひとつであることはもちろんですが、ブランド全体のバランスが重要であることもを改めて気づかされましたね。タイポグラフィでコミュニケーションをリードしているブランドは、フォントの選定や統一感が重要であることは当たり前ですが、その一方でグラフィックでコミュニケーションをリードしているブランドもあって、その場合にはタイポグラフィはブランドの一貫性や信頼感を保つために重要になります。ブランドが何をメインにどんなコミュニケーションをとっているかで、タイポグラフィの使われ方が変わってくることを知って、ブランディングにはそのバランスが必要なのだと気づいた時は面白さを感じました。
そもそもWebサービスやUIデザインはほぼ未経験だったため、最初の情報のインプットから海外サービスを参考にしたグローバル視点で吸収し始めたので、海外向けのプロダクトであってもそこまで抵抗なくデザインに取り組めています。
ただサービスに使うキャッチコピーには難しさを感じます。全て英語のプロダクトなので、キャッチコピーはネイティブの方と打ち合わせをして作っていくのですが、文章の温度感やトーンが果たしてどれほど合っているのかを相談しながら取り組んでいます。
そしてキャッチコピーで使われる言葉や表現方法には、ブランディングの方針が表れます。
ビジョンを語っていくエモーショナルなコピーなのか、ベネフィットを伝える具体的なコピーなのか、ブランドの姿勢次第で言葉遣いが大きく変わります。
だから日頃から海外サービスには「どのようなブランドにはどんな言い回しが使われているのか」を観察して、言葉の温度感を意識してインプットしながら、合わせてブランドの戦略も考えて模索しています。

ZeBrand(https://zebranding.com/)は、ブランディングのベースとなる各種情報を、オリジナルのアルゴリズムでサジェストするWebサービスです。デザイナーがいないチームや専門的な知識がない個人でも、ミニマムで効率的なブランディングのスタートができるようになります。
自身の置かれている立場やチームにもよると思いますが、新規事業やスタートアップなどの環境にいるデザイナーは特に、事業に必要なことはすべてやる気持ちが大切だと思っています。チームや会社の問題が事業に影響があるなら、それがデザインの領域でなくても解決に努める必要があります。色々なプロダクトデザイナーの方にお会いしてきましたが、スピード感を持って物事を動かしたり、必ずやり遂げる胆力を持っていたりと、デザインをすることよりも、事業を前進させることに向かってパワフルな方が多いようにも感じます。デジタルプロダクトのデザイナーの方は、自分のアウトプットが事業に直結する機会も多いと思うので、自ずとそういった意識が必要になるのかもしれません。
その中でも特に、可視化や整理が必要なことに積極的に注力していくことで、デザイナーとしての価値を出せるのではないでしょうか。まだ私にとってはハードに感じるタスクに直面する機会も多いですが、事業目線という考え方を体感しながらデザインをさせてもらえる今の環境は、とても貴重に感じています。
また、チームではコアバリューという指針をメンバー共通の価値観として大切にしているのですが、中でも「Respectful Communication(チーム・相手・自分を尊重するコミュニケーション)」というフレーズが個人的に気に入っています。色々な価値観や考え方を尊重する姿勢を持つデザイナーになりたいですし、今後も尊敬し合える方たちと仕事をしていきたいですね。
募集要項から興味がある会社のなりたいポジションを探してみると、現在の自分のスキルとのギャップが明らかになって、目標を立てやすいと思います。特に海外企業の募集はスキルセットが明確で具体的に書いてあるので、参考になると思います。
ちなみに、求人情報にはその会社のブランドの姿勢が表れていることも多いので、眺めてみるだけでもおもしろいのでおすすめです。デザイナーでも他部門との連携のリードを積極的に求められている求人であれば、主体的な姿勢を重視している企業であることが伝わってきますし、エンジニア職でもエバンジェリストのようなポジションがあれば、ユーザとのコミュニケーションを重視していく戦略や方針があるのかな、などと想像できます。ただ、私自身は、仕事のキャリアやポジションだけでなく最終的にどんな生活を送りたいかなど生活の全体像を考えることも多いので、仕事と生活のバランスを取りながら参考にしています。
今回の新規事業ZeBrandへのキャリア転換は、私自身かなり舵を切ってみました。こうやって直感で思い切ることもあれば、理想から逆算して現実に落とし込むこと、キャリアを考えるにあたってはどちらも大切にするのがいいと思います。いずれにせよ一人で考えすぎずに早く小さくでも動いてみる方が、結果的に機会は多くなると感じます。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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この記事を書いた人

ReDesigner
ReDesignerは、デザイン会社によるデザイナー向けのキャリア支援サービスです。 企業とデザイナーの間に入り、独自のオンラインアンケートや面談を通じて、 デザイナーの特性やキャリアの指向性を理解した上で適切なマッチングを行います。単純に紹介をするだけでなく、デザイナー特化型の求人票も用意しており、デザイナーが働きやすい環境設計も支援します。
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