
電卓、G-SHOCK、電子辞書。私たちの生活のあらゆる場面に、カシオ計算機株式会社(以下カシオ)のプロダクトがあります。時計のイメージが強い企業ですが、EDIFICEやBABY-G、OCEANUS、PRO TREKといった多彩な時計ブランドに加え、電卓や楽器、プロジェクター、医療用デジタルカメラ、さらにはmoflin(モフリン)のようなコミュニケーションロボットまで、幅広い製品を一つのデザインセンターで手がけています。
AIや3Dツールの進化でプロダクトデザインのつくり方が大きく変わろうとしている今、カシオのデザインセンターはあえて「手を動かすこと」を大切にしています。手描きのスケッチや3Dプリントによるモックアップ、スタイロフォームを自らの手で削りグリップ感などを確認するといったプロセスを通じて、製品のかたちを磨き上げていきます。
そのデザインを担っているのが、デザインセンター プロダクトデザイン部のデザイナーたちです。
今回は、2025年入社の武田さん、2020年入社で時計・電卓と領域を横断してきた関谷さん、そして2002年入社で、現在はG-SHOCKデザインチームのリーダーを務める橋本さんの3名にお話を伺いました。
武田 三桜(Mio Takeda)|カシオ計算機株式会社 デザインセンター
美術大学でプロダクトデザインを専攻し、新卒でカシオ計算機に入社。入社2年目。現在はCASIO CLASSICやEDIFICEなどの時計デザインを担当している。
関谷 直任(Naoto Sekiya)|カシオ計算機株式会社 デザインセンター
総合大学にてシステムデザイン学科卒業後、新卒でカシオ計算機に入社し、7年目。入社後3年間はOCEANUS、PRO TREK、CASIO Collectionを担当。その後、ジョブローテーションでG-SHOCKとBABY-Gを約2年間担当し、現在は電卓と時計を兼任。主な担当領域は電卓、PRO TREK、CASIO Collection。
橋本 威一郎(Iichiro Hashimoto)|カシオ計算機株式会社 デザインセンター G-SHOCKディレクター
2002年にカシオ計算機へ新卒入社。電卓、電子辞書、楽器、プロジェクター、デジタルカメラ、携帯電話など幅広いプロダクトのデザインを経験し、その後G-SHOCKのデザインに携わる。現在はG-SHOCKディレクターとしてチームを率いる。
武田さん:大学ではプロダクトデザインを専攻していて、工業製品の中でも感情や情緒を含んだものに興味がありました。卒業制作では、そのときの自分の状態に合わせて美容液をリアルタイムで調合してくれるスキンケアメーカーのようなプロダクトを制作しました。便利さや機能性だけに特化するのではなく、セルフケアに近い感覚的な体験を、工業製品としてどう表現できるかを考えていました。
カシオと接点ができたのは、大学で開催された会社説明会でした。デザイナーの方々がモックアップやスケッチをたくさん持ってきてくださっていて、その量の多さとリアルな雰囲気がすごく魅力的で、大きくイメージが変わったんです。それまでは「電子機器を扱う、理系の方々が集まる会社」というイメージだったのですが、もっとクラフト感のあるものづくりをしている会社なんだなと。そのまま夏のインターンに参加しました。

関谷さん:私のバックグラウンドは少し異なっていて、総合大のシステムデザイン学科出身です。この学科は、クリエーションだけでなくエンジニアリングやマーケティング、マネジメントまで幅広く学ぶところで、私はエンジニアリングを活かしたものづくりに熱中していました。
正直に言うと、就活前はカシオ製品にまったく触れてこなかった学生で、G-SHOCKも自分には合わないと思っていたくらいでした。ただ、エンジニアリングの視点から、美しさだけでなく実用性やユーザビリティに対してロジックで立ち向かえるデザインをしたい、という思いがありました。カシオでなら自分の強みを活かせるかもしれないと考えてエントリーしました。
橋本さん:私は2002年入社で、もう24年目になります。入社時は楽器やカメラを希望していたのですが、いきなり電卓の部署に配属されたんです。そこで3年ほどプロダクトデザインのいろはを学び、電子辞書、楽器、プロジェクター、デジタルカメラ、そして当時のタフネスケータイと、さまざまな品目を経験してきました。G-SHOCKに来たのは10年以上前で、カシオのプロダクトを一通り経験する中で、タフネスの本丸であるG-SHOCKも手がけてみたいと思って自分から希望を出したのがきっかけです。
武田さん:デザインセンターのフロアで4日間、デザイナーの方々が雑談しながら働いている雰囲気のなかで課題に取り組めるので、自分が実際にこの場所で働いているイメージがすごく湧きやすかったです。
また、ポートフォリオを見せたときの評価が印象的でした。周りには上手な学生がたくさんいるのでスケッチには自信がなかったのですが、パースが多少狂っていても必死に描いていたことを「線が生きていていいね」と評価していただいて、すごく嬉しかったのを覚えています。

関谷さん:私はみなさんのスケッチの上手さに圧倒されていました(笑)。システムデザイン学科は美大ほどスケッチを描く機会が多くない学科なので、配られたカタログの時計写真を見ながら、見よう見まねでなんとか乗り切った記憶があります。
入社の決め手として明確に覚えているのは、インターン中のメンターから言われた言葉です。ある時計について造形のアドバイスをもらっているときに、「この時計の基盤をこういう形にしたらユニークなデザインになるし、薄型化もできそうだよね」という話をされて、エンジニアリングまで遠慮なく踏み込めるデザイナーがいるのだと衝撃を受けました。自分のバックグラウンドを活かせる環境だと感じ、ここで働きたいと決意しました。
橋本さん:思い返せば、カシオのプロダクトを一通り経験してきました。面白いのは、前に担当した品目で培った知見が、次のプロダクトでも着実に活きていくということです。たとえばデジタルカメラで薄型のフラグシップモデルを担当したときには、電子辞書で培った「薄く見せる技」がそのまま活きました。社内を見渡すと、電子辞書チームは「コンマ1ミリ薄くできないか」という会話をしている横で、楽器チームは「2センチ盛るか」という単位感覚で話している。品目によって文化も寸法の感覚も異なるのですが、そういった違いを社内で共有できるのがカシオの面白いところです。まさに生まれようとしているプロダクトをいろいろと見られる環境は、デザイナーとしてすごく貴重だと感じます。
関谷さん:入社から最初の3年間はOCEANUS、PRO TREK、CASIO Collectionを担当して、そこから2年ほどG-SHOCKとBABY-Gを担当し、2025年4月からは電卓と時計の兼任になっています。
時計を担当していた5年目くらいまで、40万円のメタル素材の時計から3000円のプラスチック素材の時計まで異なるブランドを渡り歩いてきました。やってみて面白かったのは、40万円のメタル時計の考え方や知識が3000円のモデルに活きてきたり、その逆もあったことです。こうした知見の往復を、時計以外の領域にも広げたいと思うようになり、自分から希望を出して電卓へ異動しました。
デザインセンターという一つの枠組みだからこそ、時計経験者が電卓に関わっていたり、領域を超えて考え方が循環していく。そういう技術と発想の流れがあるのが、カシオらしい面白さだと思っています。

橋本さん:カシオは本当に商品の幅が広い会社なので、これだけ多様なプロダクトをデザインできる環境で、圧倒的なプロダクト集団として成長していくことだと考えています。こうした環境は、2〜3社転職したとしてもなかなか経験できないと思います。周りを見渡せば他のデザイナーがさまざまな商品を手がけていて、そこから学べる。デザイナーとしてすごく恵まれた環境なんじゃないかと思います。
関谷さん:私も橋本さんとほぼ同じように考えていて、だからこそ現在は時計以外の品目に挑戦しています。ただ、品目もスケールも素材も異なるカシオのプロダクトを全部軽く触れるだけではなく、広い領域の知見をさらに深く掘っていく、T字型というより「広く、かつ深く」という感覚を持ちたいです。それがカシオのデザイナーとしての大きな武器になるんだろうなと感じています。
武田さん:正直なところ、5年上の関谷さんを見ても「自分があの域にいつ到達できるんだろう」という圧倒的な差を感じる毎日です。でも、今の私にとってカシオでの成長とは、「質の高い実験」を繰り返して、自分なりの「より良い正解」を模索し続けることだと思っています。プロの現場にはブランドのルールや実装上の制約といった「リアル」があります。その中で、ただ制約に従うのではなく、自分の「好き」という感覚をどう落とし込むかだと思っています。
先輩方と議論しながら「実装できるリアルなデザイン」に向き合う。このプロセスを楽しみながら、いつか街中で自分のデザインした時計をつけている人に出会えるよう、経験を積み上げていきたいです。
橋本さん:カシオに入ったとき印象的だったのは、同じ電卓のスケッチを10枚くらい並べて、みんなでじっと見ている光景でした。見ると、角のRがコンマ数ミリ違うものをずらっと並べられていて、一見どれも同じに見える。でもそのRがコンマ数ミリ変わることで、お客さんが何百人減るかもしれない、そういう意識でデザインをしているんです。これを目の当たりにして、プロのデザイナーの意識の違いを感じました。
電卓のデザインには、本当にいろいろな要素があります。ボタンの上の数字が均一に目に入るかどうか、フォントの選択、サイズ、押しやすいキーピッチ、押したときの膨らみやへこみ、ストロークの量、液晶の読みやすさ。指に当たったときの感覚までデザインしている。一つのプロダクトでここまで考え抜くのかと気づいたとき、自分の意識が大きく変わりました。

橋本さん:機能要件と一言でいうと難しく聞こえてしまいますが、要はやりたい形と、やるべき形を一致させることだと理解しています。実はここが、一番楽しいところでもあるんです。逆に「何でもいいですよ」と言われると、その形でなければならない理由を説明しづらくなってしまいますから。
たとえばG-SHOCKのMUDMASTERという防塵・防泥構造モデルのボタンも、最初は四角いボタンで考えていました。広い面積で指でしっかり押せる方がG-SHOCKらしいと思っていたんですが、設計側で試験をするとどうしても泥が入ってしまう。発売日は決まっているし、どうしようかと悩んでいたときに、私はバイクに乗るのですが、エンジンのシリンダーみたいなボタンってどうなんだろう、とふと思ったんです。それからヒントを得て、パイプに沿って動くボタンを押し込む構造に辿り着きました。それが結果的に、今までにないG-SHOCKデザインにつながったんです。
制約があるからこそ「その形でなければならない理由」を説明できるようになる。制約を味方につけてしまえという感覚です。

橋本さん:最終的なプロダクトの形をつくるとき、最初からいきなり3Dソフトで始めると、どうしても「作りやすい形」や「面が張りやすい形」になりがちなんです。一方で、手描きのストロークでは無意識に良いバランスを探している。でも、それが3Dソフトでは面を貼りづらかったりもする。その美しい形への感覚を、カシオでは大事にしています。
だからこそ、一度立ち返って手書きの線をCADでトレースしてみたり、クレーを削ったモデルをあえて平面に落とし込んでみたりすることもあります。普通とはかけ離れた形のバランスや面の張りを調整するときは、そうやって原点に立ち返るんです。手描きには人の個性が出ますし、無意識にいい形を探してくれるので、社内ではとても大事にしている部分だと思います。
武田さん:腕時計のルールや制約をまだ十分に理解しきれていないので、「この提案は検討違いになっていないだろうか」と不安になる瞬間はあります。若手として新しいものを出していきたい一方で、ブランドの成長を念頭に置いた上での新しさを考えなければならない、そのバランスが難しいところです。
ただ、先輩が私のデザインを見てくださるときは、「どうしてこのデザインにしたのか」という意図をきちんと汲んだうえで、「じゃあこの要素は残したいよね」と要素を分解したアドバイスをくださる。結果として、自分がやりたかった特徴を残しつつ、ブランドの基盤にもしっかり乗せられている、その良い塩梅に着地できる環境があります。
関谷さん:否定される内容にも2種類あって、「これはダメ」という否定ではなく、「もっとこうしたら良くなる」という意味の否定が多いんです。上司も含めてみんな仲間のような感覚で、意図を汲んだうえで、どうするべきかを一緒に考える文化があります。
橋本さん:3つあるかなと思っています。一つ目は、造形の量と幅です。上手い下手ではなく、一つに決めて深める人と、いろいろな角度から多様な形を出してくる人の2タイプに分かれるんですが、どちらにも利点があります。実は横に描いてあったアイデアの方が後になって輝く場合も多いので、いろいろな考え方から形を思いつける人は本当に面白いなと感じます。
二つ目は、造形自体が発展しているかどうかです。思いつきで終わらず、自分で解像度を上げていける人はすごく大事です。曖昧でも一旦形にして、それをベースに考える姿勢は本当に重要で、腹落ちしないと手が進まない人も多いのですが、ざっと一度形にしてから考えてみると、頭で考えるだけでは出てこないアイデアに到達できることがあるんです。
三つ目は、結局、楽しんでいる人が一番強いということです。「もっとこうしたい」「ああしてみよう」と動いている方は生き生きしていて、楽しんでいる人は最強だなと感じます。自分の好きをぶつけて社内をザワザワさせてもらえると、私たちもすごく刺激を受けて面白いんです。
関谷さん:こだわりが強い人が多いと思います。橋本さんが「楽しそうな人が一番」と仰っていて、たしかにそうだなと思いました。実は、楽しむというのは結構難しいことなんです。楽しめる人は、自分のこだわりや世界観が頭の中に宇宙のように広がっている人だと思います。
デザインは一人でやっているわけではなく、デザインセンターには多くのメンバーがいます。そのなかで、このデザインはあの人だよね、と言われるような個性がギザギザに集まっているのが、一番いい環境だと思うんです。変態的なくらいこだわりがある人同士が集まって、響き合っている現場だと感じています。
武田さん:入社前は、もっと無機質な企業みたいな雰囲気を想像していたのですが、実際は大学の研究の延長線のような感覚で、みんなが必死に努力しながらデザインに向き合っている現場でした。卒業制作でがむしゃらに取り組んだときのような、人間味のある空気があるんです。
「カシオ=理系」のイメージから、自分とは遠い会社かなと思っていた過去の自分のような方にも、実際はもっと親近感が湧く、楽しむのに最適な環境だと伝えたいです。自分自身、今とても楽しめているので、ぜひその雰囲気に触れてほしいなと思います。
関谷さん:私自身、造形力に全く自信がない典型的な学生でした。でも、入社してからトレーニングできる機会はたくさんあります。スケッチが上手な方から講習を開いていただくこともありますし、もちろん量産業務のなかで必ず描くことになるので、そこで鍛えられる。学生時代の3〜4年のスケッチ力の差は、入社後にはほとんど関係なくなっていきます。
それよりも、企画力や自分ならではの得意を活かして挑戦できることに、むしろ期待してほしいと思います。造形力がないことを理由に諦める必要はまったくありません。
橋本さん:デザイナーというと、ドラマで見るようなシュッとしたイメージが大きいかもしれませんが、カシオはすごく温度感のある現場です。扱っているプロダクトの幅が本当に広いので、必ず自分に合うフィールドが見つかると思いますし、もしなければ新しいフィールドを作ることもできる社風なんです。「こういうのって良くないですか」と提案すると、「本当にやってみよう」の一言で量産化にまでなってしまうことも。時間をかけてやりきるプロダクトを手がけていくと、世界中で自分のデザインに出会えます。海外出張の空港で、隣の人が自分の手がけた時計をつけていたり、量販店で目の前のお客さんが自分のデザインを買うかどうか迷っている場面に遭遇することもある。積み上げた分だけ、そうした出会いが増えていきます。ぜひカシオに来て、自分の最高のプロダクトデザインを生み出していただけたら嬉しいです。

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この記事を書いた人

ReDesigner
ReDesignerは、デザイン会社によるデザイナー向けのキャリア支援サービスです。 企業とデザイナーの間に入り、独自のオンラインアンケートや面談を通じて、 デザイナーの特性やキャリアの指向性を理解した上で適切なマッチングを行います。単純に紹介をするだけでなく、デザイナー特化型の求人票も用意しており、デザイナーが働きやすい環境設計も支援します。
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