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AIが当たり前になった時、デザイナーの価値はどこに残るのか。4社が語る「AI時代の介在価値」

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イベントレポート

2026/10/5

AIが当たり前になった時、デザイナーの価値はどこに残るのか。4社が語る「AI時代の介在価値」

生成AIの進化によって、UIデザインやプロトタイプが自然言語の指示だけで立ち上がる時代になりました。「作る」ことのハードルが一気に下がったいま、デザイナーの価値はどこにあるのか。期待と不安が入り混じるこの問いを抱えている方も、多いのではないでしょうか。 

2026年8月7日、ReDesignerはオンラインイベント「AI Forward Day 〜AI時代を共に超える仲間と出会う〜」を開催しました。これは「AIの可能性を、デザイナーの転機に。」を掲げるプロジェクト「The Designers' Turn 2026」の一環として企画されたもの。AIを積極的に活用し、かつデザイナーを積極的に採用する4社が登壇し、AI活用の実態と組織の変化を、クロストーク形式で語りました。

本記事では、レバレジーズ/エンセイピア/エス・エム・エス/Ubieの4社のセッションから、「AIが作ることを担うようになった時代に、デザイナーの介在価値はどこに残るのか」という問いへの、それぞれの答えをご紹介します。

レバレジーズ株式会社「AIをプロダクトデザイン組織のOSに」複数事業を横断するデザイン組織の現在と未来

レバレジーズは、人材領域を中心に複数の事業を展開するポートフォリオ経営の会社です。立ち上げ期の事業もあれば、成長を続ける事業もあり、それぞれ抱える課題は異なります。だからこそ、AIの活用の仕方も事業ごとに変わってきます。1社目のセッションでは、マルチプロダクトならではのAI活用の現在地と、それを組織の力に変えていく構想が語られました。

富田 優|レバレジーズ株式会社 プロダクトデザイングループ・デザインマネジメントチームリーダー
2017年に新卒で入社。ハタラクティブ事業にてサービスサイトのUI/UX改善を経験後、キャリアチケット事業の立ち上げからリードデザイナーとしてアサイン。プロジェクトマネージャー等のキャリアを経て、現在はデザイン責任者としてプロダクトデザインに携わるメンバーのマネジメントや品質管理体制の構築を担う。

小杉 将之|レバレジーズ株式会社 プロダクトデザイングループ・デザインOpsリーダー
2024年に中途で入社。現在はデザインOpsチームでリーダーを担当。メンバーの育成・採用、デザインシステムの浸透や啓蒙、事業フェーズに合わせたAIの導入、事業横断でのプロダクト開発生産性や一貫性の向上に努めている。

事業の数だけ、AI活用のかたちがある

小杉さん:前提として、事業ごとにフェーズも課題もまったく違うので、AIの取り組みも一律ではなく、事業ごとに同時多発的に進んでいます。今日はその中から3つ紹介します。

1つ目は、比較的新しい1→10フェーズのプラットフォーム事業優先度での取り組みです。従来はデザイナーがFigmaでデザインを作り、エンジニアに引き渡してフロントエンドを実装する流れでしたが、これを作り直し、自然言語を介してAIでコードベースから直接デザインする形に変えました。結果、デザインからフロントエンド実装までにかかる工数を合わせて約1/4に圧縮でき、PdM・デザイナー・エンジニアの職種の壁を溶かしながら、それぞれのバックグラウンドを持つメンバーがそれぞれの得意を活かしながら事業の本質的な課題に向き合える環境を構築することができました。

2つ目は、グロースフェーズにあるメディアサイトの事例です。デザイナーがプラン責任者を務め、その意思決定にAIを活用しています。始まりは、現場の責任者が限られた人数で複数の施策を回すなかで、まず自分のタスクを仕組み化しようとしたことでした。その個人の工夫がエンジニアとの連携につながり、組織全体へと広がっていきます。具体的には、分析のパイプラインを「データ整形」と「分析」の2層に再設計したうえで、「データの探索」「文脈の調査」「レビュー」といった作業を、それぞれ役割を持たせたAIの機能に切り分けて任せました。問いを立てるところから実装・レビューまでの一連の流れをAIと一緒に回すことで、毎日驚く量の分析をし、それを日次で定常運用できる状態になっています。

3つ目は、1つのサービスの中に複数プロダクトを持つデザインシステムの領域です。もともと別々の開発ラインだったものを統合し、一貫した体験の提供が求められたことで、デザインシステムの優先度が一気に上がりました。このタイミングでAIを前提とした体制に切り替え、「機械と人間の双方が理解できる」システムの整備を進めています。AIを前提とする開発ではデザインシステムが必須だと、社内で認知される良い機会にもなりました。

どれも共通しているのは、「AIを導入すること」自体が目的ではない、という点です。個人が業務の限界を超えて本質的な課題に向き合うための手段としてAIを入れてみたら、組織全体に波及していった。そういう流れなんです。

AIは目的ではなく、本質に向き合うための手段

富田さん:たとえば2つ目のメディアサイトの例では、施策の試行数が純粋に増え、工数を気にせず仮説検証を回せるようになりました。PDCAの速度が上がり、数値の伸びも1年前とはまったく違う。担当のデザイナーと話していても、成果が数値ではっきり見え始めていると実感します。

小杉さん:AIを前提にデザインシステムを作ろうとすると、フロントエンドまで考える必要が出てきて、結果的にうまく組織を横断できる状態が生まれました。狙っていた効果というより副産物ですが、これはかなり良かったと感じています。

──富田さんは事業の成果として、小杉さんは現場から広がった手応えとして話されました。立場は違っても、その先に見ているものは重なっているように感じます。

富田さん:そうですね。事業の特性に加えて、フェーズの違いという「掛け算」があります。ケースバイケースで基盤を1から作り直すとコストがかかる。だからこそ、一度定義したものを別の事業・フェーズにも横展開できる状態、いわば「OS」に紐づけていく必要があると考えています。

個人の工夫を、組織の「OS」に引き上げる

小杉さん:各事業でAIを使う個人やチームは増えていますが、まだ個人利用の域を出ていません。たとえば、個人がローカルで工夫したものを、どうすればSSOT(信頼できる唯一の情報源)として一元管理できるのか。ローカルにあるものを、どうすればみんなが共通で見られる状態にできるのか。しかも、今それを誰が更新しているのかも見えていない。そうした運用面の課題が、いままさに顕在化しています。こうした個人の工夫を資産化・仕組み化し、組織横断で引き上げていく。これをどう「OS化」するかを議論しているところです。

富田さん:パソコンがスペックによって動きを変えるように、AIをどの事業の「ブレイン」として動かし、それをどう育てるかを考えないといけない。個人利用のままだと、その人が動けなくなった瞬間に選択肢が打ち止めになってしまう。デザイナーだけでなくエンジニアやマーケターもインハウスにいる会社なので、モジュール化された仕組みを使い回せる状態を早く整え、市場理解のフェーズにアクセルを踏みたい。そうでなければ、採用で人を増やして速度を上げるしか手がなくなってしまいます。

──ただ、「OS化」といっても、すべてを1つに統一するわけではないんですよね。

小杉さん:はい、OS化は均質化とイコールではありません。マルチプロダクトである以上、すべてを同じにはできないからです。標準化する場所、自動化する場所、最適化する場所を見極めて、実証された部分から段階的に昇格させていく考え方です。

富田さん:小杉が戦術やルールを取りまとめてくれる一方で、私は事業を縦軸で見て、それが戦略としての成果につながるかを考える役割です。たとえば、基盤が整わないままプロジェクトに入ると、レビューの工数が余計にかかってしまう。だからこそ、AI導入のタイミングについて事業責任者と合意を得た上で投資の意思決定を行い、社内に説明していく必要があります。OS化と事業戦略の達成、その両方を見ながら、どのタイミングでアクセルを踏み、ロードマップを敷くのか。そこを見極めるのが、事業目線での課題です。

エンセイピア株式会社「AIが担うほど、人にしかできないことが際立つ──ENSAPIAが実践する”問いを立てる力”のデザイン」

エンセイピアは、15周年を迎える「ポケコロ」シリーズなど、着せ替え・きせかえ世界のアプリを手がける会社です(旧・ココネ株式会社)。「AI Forward Day」の登壇企業のなかでは珍しいエンタメ領域から、少し違った角度でのAIとの向き合い方が語られました。セッションのテーマは「AIが担うほど、人にしかできないことが際立つ」です。

杉本 真利子|エンセイピア株式会社 UXデザインマネージャー
ゲーム・デジタルコンテンツ業界で、ドット制作から2DCGデザイン、ディレクションまで幅広く経験。現職では新規開発や組織立ち上げを経て、現在はUXデザイン部門全体のマネジメントを担当。

「使わなきゃ遅れる」ではなく、「やりたいこと」が先にあった

杉本さん:私たちの場合、「AIを積極的に使おう」「使わないと遅れていく」という文脈ではなく、もともとやりたいサービスや方向性があって、それを実現するために必要なら最新のテクノロジーを積極的に活用する、というスタンスでした。私たちが提供しているのは、スマホの中の「居場所」です。着せ替えを通じて、もう1人の自分としてそこで過ごしてもらう。その中心にいるのは、結局は人間です。だからこそ、人が何を心地よいと感じ、どう自己表現したいのか。その人間らしさをデジタル上で形にしていくうえで、AIという技術が役立つ場面が出てくるだろう、という捉え方で向き合ってきました。

直近では、着せ替えアプリ「ポケユニ(ポケコロユニバース)」で、お客様自身がプロンプトで指示を出すと、その言葉をもとにアバターの服ができる「アイテムメーカー」という機能をリリースしました。AIが明確にお客様に見える形で出たのは、私たちのアプリでは初めてで、予想以上の反響がありました。

AIと向き合うほど、「人間とは何か」を問うことになった

杉本さん:ありました。前向きに感じるデザイナーもいれば、「本当に自分の仕事がなくなるのでは」という恐れを持つデザイナーもいて、反応は分かれました。ただ、アンケートを取ったり、実際に一人ひとりと話をしにいったりするなかで、半数以上のデザイナーは、不安を抱えつつも前向きでした。

私たちのサービスは、デジタルのなかに「もう1人の自分」が生きているような世界です。中身は人間なので、「お客様は何に喜ぶのか」という感情に向き合っていくと、だんだん「人間にしかできないことは何か」「人間らしさとは何か」を考えるようになりました。

AIへの恐怖というより、人間とAIで担当を分けるとしたら何が人間の役割なのかを、問い直す機会になったんです。実際、いまのところAIに決断や責任は持ってもらえませんし、誰がどんな思いで作っているのかにも価値がある。「私たちが何をしたいのか」が先にありさえすれば、AIが現れても失われるものはしばらくない、と考えています。AIは奪い合う相手ではなく、やりたいことを助けてくれるパートナー、相棒なんです。

──不安の声にも、アンケートや対話で一つひとつ向き合ってこられたんですね。サービスづくりそのものでも、対話を大事にされているのでしょうか。

杉本さん:対話は本当に大事にしています。相手の考えを否定せず、まず価値観をお互いに共有したうえで、方向がどうかを話す。それが対話だと思っています。いろんな考えや不安があって当然、という前提で、「AIを使ってどうやれるんだっけ」を繰り返し話していくと、現場から「ここは使えるんじゃないか」という発見が生まれてきます。

量産のプレッシャーが軽くなり、創造性に向き合える

──クリエイティブの生成には、抵抗感も出やすい領域だと思います。どのように取り込んだのでしょうか。

杉本さん:葛藤や反発というより、人間のデザイナーとAIの「棲み分け」が進んだ感覚です。着せ替えのアイテムは、これまで供給量の100%を人間が担っていて、それがそのままサービスの限界にもなっていました。

作り手であるデザイナーには、「売れるものを、数多く作らなければ」というプレッシャーも常にあります。そこにAI生成という選択肢が加わったことで、その量産のプレッシャーが軽くなり、デザイナーはより創造性を発揮しやすくなる。

お客様の側も、これまで応えきれなかったニッチなニーズまで満たされる。結果として、拒絶されるどころか「思った以上に喜んでいただけた」。ポケユニならではの価値を、私たち自身も発見できました。

良い問いは、本質を見抜く力から生まれる

杉本さん:社内でも意見は様々ですが、共通して言えるのは、最終的なデザインの判断です。このタイトルの世界観、お客様にどんな体験をしてほしいか、チームの状況や実装の制限、そのすべてを照らし合わせて「これでいく」と判断するのは、圧倒的に人間にしかできないことです。何を「いい」と感じ、何に違和感を覚えるかは、その人が生まれ育った経験や価値観によって変わります。そこは人間ならではの価値で、いまのところ揺らいでいないと思います。

そして、何を打ち込むか、つまり「問いを立てる力」です。最初に入れる指示のレベルで、出てくるものがまったく違ってきます。良い問いを立てるには、本質を分かっていないといけない。それは、他者と一緒に学び考える関係性をつくる力や、多様な視点、自分の専門や立場を超えた広い文脈で考える力から来るものだと思っています。過去の成功体験に縛られず、「今のお客様にとってはどうか」を常に問い続ける。しんどいことですが、思考停止しない習慣こそが、良い問いにつながると感じています。

AI時代、デザイナーの価値は「作る速さ」から「判断の言語化」へ──エス・エム・エス向井氏が語る組織のAI Native化とキャリアの生存戦略

エス・エム・エスは、「高齢社会に適した情報インフラを構築することで人々の生活の質を向上し、社会に貢献し続ける」ことをミッションに掲げ、介護・障害福祉事業者向けSaaS「カイポケ」など40以上のサービスを展開する会社です。3社目のセッションでは、「デザイン組織のAI Native化」という取り組みの背景と設計思想が語られました。

向井 毅男|株式会社エス・エム・エス カイポケ開発部 プロダクトデザイナー
DeNA、GO、KINTOテクノロジーズなどでプロダクトデザイナー、プロダクトマネージャー、デザインマネージャーを経験。現在は株式会社エス・エム・エスにて介護事業者向けSaaSのプロダクトデザインを担当。

問うべきは「個人がAIを使えるか」ではない

向井さん:私は4月にジョインしたばかりで、今月で4ヶ月目です。ジョイン時に与えられたミッションの1つが、デザイン組織づくりでした。カイポケには、既存のデザインシステムという良いアセットもあります。それを土台に、この組織を今後どこへ向かわせるかを考えたとき、行き着いたのが「AI Native化」という方向性でした。ひとことで言えば、AIをてこにして事業を伸ばせるデザイン組織をつくることです。

──具体的な取り組みを教えてください。

まず前提として、「個人がAIを使いこなせているかどうか」は、もう本質的な課題ではないと考えています。 AIは、蓄積された情報を解釈・解析できて初めて力を発揮するもの。裏を返せば、デザイナーが日々下している一つひとつの判断が、言語化されないまま個人のなかに留まっていては、AIには活かしようがありません。だからこそ、そうした判断を形式知として書き残し、組織のなかに積み上げていく。その土台づくりが欠かせないと考えています。私たちのデザイン組織は、まだ「AIが効く」状態にはなっていない。本当に解くべき課題は、そこにあると捉えています。

【なぜ今?】超高齢社会が迫る2040年課題と、デザイン組織が抱える3つの危機

向井さん:私たちの事業は、介護・医療・障害福祉などのドメインに向き合っています。ひとつのマイルストーンとして2040年を置いています。団塊ジュニア世代が一斉に高齢者となり、社会を支える側から支えられる側へと回る。高齢者は増え、支え手は減り、社会全体の負荷が一気に高まるタイミングです。2040年という遠くない未来に向けて、残された時間は決して長くはありません。

だからこそ、社会が変わるスピードに、自分たちのサービスを間に合わせられるか。そこに強い危機感があります。一人ひとりの工夫を積み重ねるだけでは、到底間に合わない。AIの力で、組織そのものを底上げしていく必要がある。それが、私たちがAI Native化を急ぐ理由です。

もし何も手を打たなければ、デザイン組織には3つのことが起きると考えています。 1つは、デザインの価値が見えづらくなること。AIである程度動くものが作れてしまう時代に、「では、どこにデザインの投資をすべきか」を経営に対して説明できなくなる。 2つ目は、判断が属人化していくこと。AIを使えば1人で何でもできてしまう分、それぞれの判断の根拠が個人のなかに閉じ、組織に残らなくなる。 そして3つ目が、事業が変わるスピードに、デザインが構造的に追いつけなくなること。この3つを、起きてから慌てるのではなく、先回りして防ぎにいく。それがAI Native化の狙いです。

判断を資産化し、失敗さえも次の糧にする

──判断を資産化し、グループとしての形式知にしていく。「言うは易し、行うは難し」の部分を、どう進めているのでしょうか。

向井さん:この「資産化」でいちばん効いてくるのが、実はコンテキストなんです。UIをそれっぽく出すだけなら、いまはAIでも簡単にできる。ただ、そこに圧倒的にコンテキストが足りていない。特に介護の領域は独特で、国が定める保険制度があり、3年に一度の法改正で加算要件やフォーマットも変わります。こうした前提を渡さないままAIに任せると、見た目は綺麗でも、介護事業者の実際の業務と噛み合わない画面やフローができてしまう。最初は速く進んだように見えて、結局は作り直しになり、かえって遅くなるんです。

だからこそ、3つの方向で形式知化を進めています。1つは、もともとあったカイポケのデザインシステムを、AIが解析できる状態に整え、コンテキストも注ぎ込んでいく「デザインシステムのAI Ready化」。2つ目が「ドメイン知識のAI Ready化」。介護・障害福祉の領域は、キャッチアップが年単位でかかるほど複雑です。だからこそ、新しく入る仲間がすぐに参照できる状態にしておく必要がある。そして3つ目が、アウトプットをAIがどう評価するかという「品質基準のAI Ready化」です。

もう一つ大事にしたのが、この取り組みを「なんとなく」で終わらせず、きちんと計測できる形にすることでした。中心指標(NSM)として掲げたのが「立証された判断」です。少し硬い言葉ですが、中身は4つの要素の掛け算で捉えています。

  • 取り組んだデザイン判断の母数:どれだけ意思決定、判断に踏み込んだか
  • 因果連鎖(ロジック)を描けた割合:事業やプロダクトの戦略とユーザー価値のつなぎを描けているか
  • ベースラインを取れた割合:変更前の数値(比較の基準)を計測できているか
  • 先行指標が動いた割合:事業の手前の指標を実際に動かせたか

この4つが揃って初めて「立証された」と言える、という考え方です。

この4つは、そのままデザイナーが伸ばすべき力のガードレールにもなっています。たとえば2つ目の「因果連鎖(ロジック)を描けた割合」は、いわば翻訳力です。事業やプロダクトの戦略を、ユーザーにとっての価値へと翻訳する力で、AIの時代になっても、むしろ必要になると思っています。3つ目のBefore/Afterの数値化も、正直デザイナーが苦手にしがちなところですが、だからこそ逃げずに追う。こうした指標を、会社の戦略からプロダクト戦略、デザイン戦略、そして一人ひとりのOKRまで一本の線でつなぎ、各自が自分の立ち位置を確かめられるようにしています。

そして何より伝えたいのは、 「指標が動かなかったら評価されない」わけではないということです。 うまくいかなかった判断も、「なぜダメだったのか」をコンテキスト(文脈)として言葉に残しておけば、それ自体が次にAIが学習・活用できる貴重な資産になります。だからこそ、失敗の言語化もまた、組織のAI Native化に向けた大切な一歩として扱っています。

──現在地と、当たっている壁があれば教えてください。

向井さん:戦略の言語化とNSMの設計、そして一人ひとりのOKRへの紐づけまではできました。先ほどの3つの方向のうち、デザインシステムのAI Ready化(AIに提示できる文脈(プロンプトやドキュメント)として言語化・構造化する状態)は具体的に動き始め、パイロット運用するプロジェクトを選定中です。ドメイン知識のAI Ready化や品質基準のAI Ready化といった残りのテーマは、まだ進行中です。

とはいえ、正直に言えば、まだ道半ばです。 いちばんの壁は、「判断を言語化して残す」こと自体が、思っている以上に難しく、コストもかかること。 しかも、それを普段からやっている人と、これから慣れていく人とでは、同じ判断を言葉にするだけでも倍近い差が出てしまう。だからこそ、いきなり全体で標準化しようとせず、テーマごとに基準を決めて事前に共有しながら、小さく検証サイクルを回して育てているところです。

AIに任せた先で、デザイナーは何に時間を使うか

向井さん:今後のデザイナーの生存を考えたとき、価値になるのは、どれだけ自分で考え、苦労して、泥臭く判断し、結果まで追いかけたか、だと思っています。そこはAIにはなかなかできない。逆に言えば、AIに任せられるところは任せて、空いた時間をそこに充てるのがいい。これはデザイナーの市場価値という観点でも、事業やプロダクトの成功確率を高めるうえでも効いてくる、というのが今の仮説です。

──「根拠と結果をセットで語れるものが何件あるか」という問いかけも印象的でした。

向井さん:AIが作ったUIやアウトプットが、本当に筋のいいものなのか。それを判断するには、根拠が要ります。リサーチをしたり、一次情報を取りに行ったり、社内のエキスパートに聞いたり。そのうえで実際に世に出して、結果どうだったかまで見届ける。

これまではプロダクトマネージャーやビジネス側が挟まって、デザイナーからは少し遠かったところを、空いた余白で自分が最後までオーナーシップを持って追い切る。判断と結果がどう結びついたかを自分の資産にして、チームに還元していく。それを、これからの1年でやっていきたいですし、やり切るために戦略にも落とし込みました。

「画面を作る作業」がAIに代替されていく時代だからこそ、デザイナーの真の価値は「ドメインと向き合い、泥臭く判断し、その結果まで責任を持つこと」へとシフトしていきます。判断の根拠と失敗のコンテキストを言語化して組織に残していく──それこそが、AI時代を切り拓くデザイナーの強固なキャリア資産になるはずです。

Ubie株式会社「多くがプロダクトビルダーになったUbieで、デザイナーの介在価値はどこに残ったか」

最後のセッションは、医療領域でAIプロダクトを手がけるUbie。「多くがプロダクトビルダーになったUbieで、デザイナーの介在価値はどこに残ったか」というテーマで、「役割の拡張」という視点から語られました。

畠山 糧与|Ubie株式会社 プロダクトビルダー
2018年、創業初期のUbieにジョイン。国内外の事業でデザイナー・PdMを経験。現在はプロダクトビルダーとして、病院向け生成AIプロダクトを顧客理解からデザイン・実装まで一気通貫で担当。

職種の壁を越えるプロダクトビルダー

──日本でも今年の春ごろから、同じような職種を出そうかという相談がReDesignerにも増えてきました。Ubieは早くから「プロダクトビルダー」を掲げています。Ubieが定義するプロダクトビルダーとは、どういうものでしょうか。

畠山さん:Ubieの場合は、「プロダクトビルダー」という名前がつく前から、そうした職能を持った人材が社内にゴロゴロいました。バックグラウンドはさまざまで、エンジニアもPdMも、社内にいる医師も、デザイナーも、それぞれ尖った専門性を持ちながら、そこから横に染み出していくようなT字人材です。つまり顧客の課題を見つけ、価値を定義し、形にし、リリースして終わりではなく「本当に価値が届いているか」まで、一気通貫で見届ける。その専門性を軸にしつつ、隣接領域までカバーして顧客への価値を届け切る人たちです。

「プロダクトビルダー」を正式に役割として置いた背景は、入社前後のギャップを採用でうまく伝えたかったこと。そしてAIで「作る」が速く高品質になり、浮いた時間を手前の顧客にとっての価値を見つける工程とリリース後に価値が届いたかを確かめる工程に振り向けられるようになったことです。プロダクトビルダーの求人を出すと同時に、既存のデザイナー・エンジニア・医者・PdMという4職種のジョブディスクリプションも、期待値としては同じ中身に統合しました。

全員が現場に立ち、観察から意味を見出す

畠山さん:職種を問わず、みんなずっと現場にいる感じになりました。うちで言う現場は病院で、今日もメンバーは全国の病院を飛び回っています。医師にプロダクトを使ってもらうオンボーディングも自分でやり、診察室を少しお借りして観察する。「価値として伝えようとしていたことが伝わっていない」「まだ痒いところに手が届いていない」を見つけて、隙間時間でプルリクを出して解消し、「もう直ったんですか?」と。目と耳と足で情報を取り、その場で解決して当ててみる。病院は電波が悪いので、その環境を前提にプロダクトを作る、という話にもなります。

──エンジニアもPdMも医者もプロダクトビルダー化するなかで、デザイナー出身だからこそ際立つものは。

畠山さん:観察したものから意味を見出すのは、デザイナーのバックグラウンドを持つ人が特に得意だと感じます。たとえば医師が診察の合間に書類を作るとき、その一行一行にどんな意味が込められているかは、医師にとって当たり前すぎて言語化されていない。「なぜこれをやっているんですか」と問いかけ、観察から「本当はソフトウェアで解決できる不都合」を汲み取る。そこから得られるインサイトが多いのが、1つの特徴です。

もちろん、医師にとっての「当たり前」は、社内にいる医療職のメンバーがいちばんよく知っています。だからそこは、お互いに補い合う。医師が当たり前として受け入れている不便を、デザイナーが「本当はこうあるべきでは」に描き直す。ちょうど二人三脚のような関係です。逆に、作った後の工程まで見に行くことや、UXリサーチにチャレンジを感じるデザイナーもいます。自分の尖った専門性を持ちつつ、そこからどう横に染み出していくか。プロダクトビルダーとは、そういう役割なのだと思います。

変化を楽しみ、歯応えのある問いに向き合う

畠山さん:根本にあるのは、役割は手段でしかない、という捉え方です。肩書きが何であれ、突き詰めれば「顧客にとっての価値に向き合う」ことは共通で、そこにどう関わるかの違いにすぎません。そのうえで大事になるのが、変化を楽しめるかどうか。環境が本当にめまぐるしく変わるので、たとえば「明日からカスタマーサクセスをやってほしい」となったときにも、これまでの自分の仕事に連続性を見出せるかが問われます。もう一つが、AIとの向き合い方です。たとえば、顧客の業務がこの先かなりの部分までAIに置き換わったとしたら、その業務体験はどう変わるのか。そこを構想するのが、これからのデザイナーやプロダクトビルダーの役割だと思っています。ただ、それを想像するには、自分たち自身がAIを使い倒していないと、絵空事になってしまう。1年前どころか、2ヶ月前にできなかったことが普通にできるようになる世界です。だからこそ、手触り感を持って使い倒し、自分やチームの働き方も、顧客にとっての「当たり前」も、自分たちの手でアップデートしていく。そういうスタンスが、これからは効いてくると思います。

デザイナーに限らず、キャリアを考えると、マネジメントに進むか、ICとして専門を極めるか、あるいは起業するか、といった型に落とし込みがちです。でも、自分をその型に押し込めていくのは、どこかで無理が出てくる。むしろ、自分の好きや得意と向き合いながら、変化そのものを楽しめる人。いまの肩書きを少し窮屈に感じている人ほど、こうした働き方は合っているのかもしれません。

最後に

4社のセッションを通じて一貫していたのは、 「AIは目的ではなく、手段である」 という共通認識でした。

レバレジーズは個人の工夫を組織のOSに引き上げようとし、エンセイピアは人にしかできない「問いを立てる力」に立ち返っていました。エス・エム・エスは判断を資産化してAIが効く組織をつくろうとし、Ubieは職種の壁を越えて価値を届け切る人を増やしていました。アプローチはそれぞれ違いますが、「作る」が速くなるほど、問いを立て、本質に向き合い、判断し、価値を最後まで届け切るという、人にしかできない仕事の価値がむしろ大きくなる。4社の話は、その一点で共通していたように思います。

AIによって「正解」が更新され続ける時代に、大切なのは未来を正確に読むことよりも、自分なりのスタンスを持つことなのかもしれません。今回の4社の言葉が、これからのキャリアを考えるデザイナーにとって、そのヒントになればうれしく思います。

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