
2022年3月23日に、社会課題×デザインをテーマに取り組む企業が登壇するReDesigner Social Impact Dayが開催されました。第3弾となる今回は「コミュニティ」「働き方」「地方創生」の3テーマについてお話しいただきました。
本記事では「アイデンティティー×デザイン」をテーマにお話しいただいた2社をご紹介します。製品・サービスへの想いと高い品質を大切にする両社から、企業・デザイナーの視点でどのようにブランドと向き合ってきたのかを伺いました。

タカヤ・オオタ (TAKAYA OHTA) | kern デザイナー/アートディレクター
デザイン事務所と事業会社でデザイナーを務めたのち、2017年にkern (ケルン) を設立。スタートアップ企業を中心にアイデンティティ・デザインの領域で活動中。2019年からはチーズケーキブランド「Mr. CHEESECAKE」のアートディレクターを兼任。その他の仕事として、「青山ブックセンター」CI、『明け方の若者たち』(カツセマサヒコ著) 装丁、「10X」「LUUP」CIなどがある。立教大学経営学部卒業。
現在、株式会社ケルン(以下、ケルン)はスタートアップ企業を中心にお仕事をさせていただくことが多いです。最近では2022年2月にリリースされた、LUUPというマイクロモビリティのサービスや『明け方の若者たち』という小説の装丁を手がけました。


このように、ケルンは特定の領域にフォーカスしてデザインをしているわけではありません。様々な領域において受け手の幅が広がっていくタイミングで、アプローチをどう捉え直すか、どんなコミュニケーションを取っていくかを考えています。例えば、『明け方の若者たち』では、SNSの呟きで発信していた人が、小説デビューをして、映画化をすることになった、というタイミングでデザインに携わっています。

また、Mr. CHEESECAKE もシェフが1人で作っていた段階から、より沢山の人に触れてもらおうというタイミングでデザインに携わりました。
以上のように、ケルンは今まで応援してきた人にも、新しく触れる人にも、より良いブランド体験を提供するために、主に見た目の側面でお力添えしている会社です。

木村 祥一郎 (SHOICHIRO KIMURA) | 木村石鹸 代表取締役社長
1972年生まれ。1995年大学時代の仲間数名とITベンチャー企業を起ち上げる。以来18年間、商品開発やマーケティングなどを担当。2013年6月家業である木村石鹸工業株式会社へ。2016年9月、4代目社長に就任。石鹸を現代的にデザインした自社ブランド商品を展開。OEM中心の事業モデルから、自社ブランド事業への転換を図る。
木村石鹸工業株式会社(以下、木村石鹸)は、1924(大正13)年に創業した石鹸メーカーです。釜焚き製法という、職人が釜で油を焚きながら石鹸を作る昔ながらの製法を現在も続けています。釜焚き製法で作った石鹸を配合することで主に色々な洗浄剤を作っている会社です。

僕は木村石鹸の4代目社長です。親からはずっと「長男のお前は木村石鹸を継ぐんだ」と言われ続けたせいか、継ぎたくなくなってしまいました。そして、大学時代に友達とIT系の会社を起業し18年間経営しました。元々その会社一本でやっていくつもりでしたが、木村石鹸の事業承継問題などがあり、正直嫌々木村石鹸に戻りました。しかし、、思いの外ものづくりが面白く、3年後には社長に就任し、現在は木村石鹸一本でやっています。
木村石鹸は元々他社ブランドの製造を請け負うOEMの会社でしたが、オーダーを受けて商品を作る裏方仕事では利益を取りづらくなっていました。そこで、自分たちで商品・販路を作ろうと、自社ブランド事業を立ち上げました。

自社ブランドは大きく分けて3つあり、1番初めに立ち上げたブランドがSOMALIです。石鹸と天然由来成分だけで作っており、主に台所・お風呂・衣類の洗剤として使用することが出来ます。

2つ目はCRAFTSMANSHIPシリーズで、これは家庭内のちょっとした困りごと、ニッチな掃除のニーズに応える商品群です。例えば、冷蔵庫の自動製氷機や風呂床専門の洗剤など、ニッチだけど汚れが落としにくい場所を専門とした商品ですね。

3つ目は、12/JU-NIというヘアケアのブランドで、これはクラウドファンディングから始まった商品です。
今日は、普段公に出さない失敗談をお話しさせていただきます。
実はこの自社ブランド事業のスタートは、既存の自社ブランドを撤退するところからでした。もともと社内でもOEMだけでは心許ないと考えており、新しい販路を開拓すべく自社ブランド事業を立ち上げたのですが、上手くいかなかったのです。

第1弾は、虫除け、ダニ避け、防カビできるアロマプレートでした。プレートを吊るすと発する香りのみによって効能が得られるので、非常に安全性が高い商品です。短所を強いて言うなら、機能と香りがセットになっているため、香りを変えられない点でした。
この商品を量販店に大々的に展開するためには目立つキャラクターが必要だとデザイン会社に言われ、商品の効能から、虫やダニ、カビから「家を守る」という意味をかけて、フィンランドの物語に登場する「家を守る」妖精をキャラクター化することになりました。
今までにない商品だったため、展示会での反応は良く、全国展開する大手量販店からの注文も入り、社内は湧き立ったそうです。ところが数ヶ月後、全然売れず出荷した数量の30%が返品されてきました。社内がこの返品の山に悩まされている最中、僕は木村石鹸へ戻りました。戻ってすぐにこの商品の撤退を決めたのですが、結局完全撤退まで3年もかかってしまいました。
第1弾が売れなかった、リピートが継続しなかった理由は以下の3点だと考えています。
・機能面での凄さが全然伝わらない
・伝えられる場所、チャンネルでの販売ではない
・利用シーンや利用者の心理を考えていない

第1弾のキャラクターやクリエイティブで商品の高い安全性をアピール出来るでしょうか。また、量販店を利用する人たちは安全性が高く人に優しい商品を重視しているのでしょうか。やはり量販店では、まず価格や強力なブランドが重要視されます。
さらに根本的に駄目だと思っている点は、そもそも利用したいかどうかです。果たして家や車にこのキャラクターのアロマプレートを吊るしたいでしょうか。僕は、良い商品だなとは感じたのですが、絶対に自分の家には置きたくないと思いました。むしろ、この類の商品はインテリアに紛れさせて存在感を消したいものだと思うのです。
この失敗を経て、自社ブランド第2弾としてSOMALIを作る際には、次の点を意識しました。
・自分達のリソースに合うチャンネルを選ぶ必要
・プロダクトの特性に合わせたデザインと市場の選択
・利用者をしっかりイメージすること
・装飾的ストーリーではなく、本日的なストーリー
・短期決戦ではなく、長期戦。ファンづくりにつながる

自分たちの商品やその特性を理解し、それに合わせたデザインや市場を選択すること、そして何より、まずは利用者をしっかりイメージすることです。店頭で目に付くからキャラクターを作る、というのは利用シーンを考えておらず表層的ですよね。安全性の高い商品を作ることは本当に大変なことなのですが、その本質を伝えるストーリーが必要なのです。また、第1弾は商品を長期戦で捉えておらず、短期的に注目を浴びて売れれば良いという意識だったことを反省しました。
これらを全て考えるのがデザインなのだと思います。プロダクトやサービスの綺麗さやかっこよさだけがデザインなのではなく、全て踏まえて商品がお客様のもとで1番輝き、1番気持ち良く使っていただける、そのような状態をどう作るかがデザインだなと思うのです。現在木村石鹸では、そのようなことを意識しながらブランディングを行っています。
後半は、ReDesigner 事業責任者の佐宗がモデレートしながら、登壇者の皆さんとインタラクティブセッションを実施しました。ここからはその一部をご紹介します。

ケルン タカヤさん:僕の仕事は企業のブランドアイデンティ策定、主にロゴの制作が大半を占めています。しかし、僕自身は自身の生活にロゴやデザインが過度に存在感を主張するものをあまり置きたくありません。その矛盾に葛藤することはありますね。
例えば書店で本を買うとき、宣伝文句で埋め尽くされたカバーを見ると、自分の生活する空間にはその本を置き続けたくないなと感じてしまいます。他方、書籍にせよ日用品にせよ、店頭で他の商品よりも目立たなければ手に取ってもらえない、その結果売り上げが下がってしまうという葛藤は日々あります。ロゴの主張が強いと目立ち、宣伝になり、新しいお客様の獲得に繋がることは理解しつつも、一人間としてはそのような製品を選んではいないという…。
木村石鹸 木村さん:企業からは「目立つように」「もう少し印象に残るように」などのオーダーもあるのですか。
ケルン タカヤさん:あります。色1つを取っても「なるべく競合他社より目立つ色がいい」という依頼はありますし、デザイナー目線でも(目立たせるなど分かりやすく主張する方が)案を通しやすいです。木村石鹸さんの自社ブランド第1弾の例でも、このキャラクターにはストーリーがあって…という話をされると、その点においては納得しますよね。
しかし、そのストーリーがお客様まで届くことは本当に稀です。制作会社と企業の間では合点のいく話だったとしても、お客様に届くとは限らないという溝は感じますね。
佐宗:なぜ木村さんは、自社ブランド第1弾の振り返りが出来たのですか 。第1弾のマインドを持つ方々と第2弾も作ると同じ失敗をするように感じました。
木村石鹸 木村さん:僕はユーザーとして第1弾を家で使うかというとそこは疑問でした。ユーザー視点からスタートしたので客観的に振り返りが出来たのだと思います。
作り手になると、作ることに意識が向いて実際に使うシーンが見えていないことは良くあります。作り手は商品の機能も良さも沢山知っているため、その想いが強すぎて気づけなくなってしまうのですね 。
佐宗:お話から、タカヤさんは商品が生活の中にいかに自然と溶け込むかを大事にしている印象を受けました。アイデンティティをデザインする中で、売り場に足を運び観察する、といったアプローチは大事にしていますか?
ケルン タカヤさん:売り場を観察することは大切にしています。Mr. CHEESECAKE はセブン-イレブンさんとコラボしたアイスクリームを発売したのですが、その際も売り場を観察しにいきました。
オンラインストアでの販売は、購入意欲の高い方が主体的に情報を取りに来てくださいます。そのため、パッケージで過度にコミュニケーションを取らなくても良いのです。しかしコンビニとなると、Mr. CHEESECAKE を知らない人にも購入の余地があるのか、他商品と同様に様々な要素をパッケージに載せるべきか、そうすると目指すべきブランド体験とずれるのではないか、などと考える必要があります。そんなときは実際に売り場へ足を運ぶことで、パッケージや形状など最適なコミュニケーションが見えてくるのです。
ただ、今の日本ではパッケージなどのデザインをする前から売り方がほぼ固まっています。お客様へのアプローチを考えるタイミングからデザイナーと話さなければ、デザイナーも既に決まったことへはアプローチ出来ないことが多いのです。僕自身制作する中で、もっと手前から話をしていかなきゃいけないなと感じています。

ケルン タカヤさん:ふわっと話をして雑談から議論を深めながら、お互い気付かない側面に触れていくというアプローチを行っています。まだ世に出してない進行中の案件でも、複数のデザイナーが関わることで「改めて自社のアイデンティティとは何だろうと立ち戻ることができました」という声をいただくこともありました。担当者が商品の全てを知っているわけではないので、一緒に話しながら自分たちの考えを整理していくところから始めるのが良いのではないでしょうか。
木村石鹸 木村さん:僕もデザイナーとは雑談しかしていません。デザイナーとの雑談で新しく発見することは実際にあるんですよね。実は、12/JU-NIのポテンシャルはあるデザイナーに気付かせてもらいました。当時12/JU-NIに対して、シャンプーとしての売り文句がないことに悩んでいました。市販のシャンプーのような語れる要素がなく、ただ良い商品だなと。12/JU-NIをどう位置付けたらいいかと話していく中で、デザイナーが「伝えることは何もないことが、実は正直さなんだ。取り立てて伝えることはないけど、本当に良いものができたと言う方が木村石鹸らしいんじゃないか」と教えてくれたのです。
伝えることが何もないことをとてもネガティブに感じていたのですが、何もないことが実はプラスなのだと雑談の中で見つけ出してくれました。声を交わすと色んな方向の解決案が出てきますし、やはり必要なことだと思います。

木村石鹸 木村さん:想いをカタチにする過程で最も大事にしていることは、自信を持って自分たちの商品を提示できるかどうかです。 最終的に商品としてカタチになったものを自分が1番の使い手となれるか、誰かに自信を持って贈れるか、をとても大切にしていますね。
佐宗:上記を大切にするためには、デザイナーはどんな意識を持って行動をしていけば良いのでしょうか。
ケルン タカヤさん:先ほどの12/JU-NIの話で、取り立てて言葉をどう飾るかを考える必要がなかったという気付きをチーム全体が得られたことがすごく良いなと思いました。
営業やマーケティング、デザインなど職務によって、売るためにどんな「施策」が必要か、どんな「言葉」が必要か、片やどんな「デザイン」が必要かを各々考えるのは当然の責務だと思います。しかし俯瞰的に自分も1人の消費者だと捉えなおすと、また違ったものの見方が浮かび上がってくると思います。
その商品が言いたいことは何か、それを見たり聴いたりして自分はどう感じるか?といった芯を喰う会話ができる状況がとても大切で、それは決まり切った業務上のやり取りからは生まれないこともあります。そのため、あまり凝り固まっていない状態から色んなことを話せる環境作りを大切にしています。「売り方を考える」という言葉だけだと、マーケターの領分であり、デザイナーの職務ではないのではと感じる方もいると思いますが、たとえ専門領域でなくても、商品について幅広くチームで話し、それをデザインという自身の専門領域ではどのように落とし込むのが最適解なのか?と思索を広げられることは沢山あると感じています。
以上、「Social impact Day vol.3【アイデンティティー×デザイン】想いをカタチにするブランドストーリーとは」のイベントレポートでした。
ケルンさん、木村石鹸さんより、企業・デザイナーの目線からブランドへの向き合い方や想いをお話しいただいた貴重な時間でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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この記事を書いた人

ReDesigner
ReDesignerは、デザイン会社によるデザイナー向けのキャリア支援サービスです。 企業とデザイナーの間に入り、独自のオンラインアンケートや面談を通じて、 デザイナーの特性やキャリアの指向性を理解した上で適切なマッチングを行います。単純に紹介をするだけでなく、デザイナー特化型の求人票も用意しており、デザイナーが働きやすい環境設計も支援します。
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