「デザイナーを三井住友銀行に不可欠な存在にしたい」1人目デザイナー金澤さんの挑戦
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インタビュー

「デザイナーを三井住友銀行に不可欠な存在にしたい」1人目デザイナー金澤さんの挑戦

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今回お話を伺ったのは株式会社三井住友銀行の1人目のUI/UXデザイナー、デザインコンサルタント 金澤洋さん(HCD-Net 人間中心設計専門家)です。学生時代はテキスタイルデザインを学んできた金澤さんがデジタルデザイナーとしてキャリアを歩み、三井住友銀行1人目のデザイナーとして入行したきっかけ、そして今後目指すデザイン組織のあり方について伺いました。

── 金澤さんがデザインを意識し始めたきっかけについて教えてください。

今は頑なになっているわけでもないですが、元々、見た目にこだわることが多く、ファッションデザイナーやインテリアデザイナーになりたいと思っていた時期もあり、それらが総合的に学べる武蔵野美術大学(武蔵美)に入学しました。

入学した工芸工業デザイン学科では、1、2年次でモノづくりの基礎を学ぶ機会があり、その中からインテリアデザイン(大学所蔵のチェアの調査)、木工(スケッチ、図面、モック、実制作)、金工(スケッチ、塑像、石膏取り、鋳造と鍛金)の演習を体験しました。どの専攻にするか選択する直前でテキスタイルデザインの教授の講義を受ける機会があり、吸い込まれるように基礎演習ではあえて外していた、テキスタイルデザインを専攻することとなりました。
理由は、その講義で教授が、「幸せの黄色いハンカチ」という映画の中で一枚のハンカチが意味する、モノとしての強さを語っており、たかが一枚の布だと思っていたのに、「一枚の布の色や形、素材感や触感」が人に与えるメッセージ性の影響力の強さに大きく感銘を受けたからです。後先を考えずにテキスタイルデザインの世界に飛び込んだという、良くも悪くも一般的な社会のレールから外れてしまった瞬間でもありました。

その後、大学院までテキスタイルデザインを専攻し、時間をテーマとした作品を制作していました。鉄や銅板、鉄粉などを火や酢酸などで生成させた錆を、手織りした布に転写させ、緯糸をほどき直して、ブラー効果を狙ったほぐし織りのタペストリーや和紙を煮詰めて繊維だけ取り除いたものを、型に流し込んだ造形物を制作していました。いくつもミニアチュール(プロトタイプ)を作り、ドローイングやスケッチを繰り返したりするフローの根っこは今のデザインプロセスと似ているところがあります。よく教授に言われたのがドローイングの方が魅力的だったねと言われたことは今でも心に残っています。本番の実制作では素材の扱い方やサイズ感が変わるため、思うようにいかないことが多くありました。その解決策としてプロトタイプを繰り返し、完成イメージの解像度を上げるというデザインのプロセスは今振り返ると、この時に体感していたのかもしれません。 なぜ、大学院まで進んだかというとテキスタイルデザインの面白さと同時に深さを知り、無知の知というか、もっとテキスタイルデザインの研究を突き詰めてみたいと思ったからでした。当時の自分はわからないものに対して無限の可能性を感じてしまうような、武蔵美生にはよくいるうちの一人でした。当時の私の志向はデザイナーという意識より、自分の考えや思いを形にする作家(アーティスト)としての方が近かったのかもしれません。

武蔵美大学院修了後は、就職活動をせず制作を続けようと思っていたのと、学生の頃から講師をしていた美術関連の企業で、専任として入社しないかと話をいただき、講師だけでなく社会経験を積みながら制作活動ができると思ってその会社に入社しました。
仕事は講師の他にギャラリーやアートスクールのスタッフとして運営側にも携わっていました。ホームページ、パンフレット制作から営業活動、ギャラリーの方は美術品の運搬、展示の企画アシスタントなどしていました。ただ、そんなに甘いものではなく、徐々に仕事中心の生活になっていき、なかなか制作活動をする時間やモチベーションも取れなくなり、結局は、スタッフとしての仕事は2年で辞めてしまいました。

その後は、制作活動とデザインの講師を続けながら友人とテキスタイルを中心としたブランドを企画し、それをきっかけにWebサイト作成を初めて行ったのが、Webデザインとの出会いです。全くの未知の世界でしたので、分からないことが有り過ぎて、気に入ったホームページのソースコードを紙に印刷し、色鉛筆で関係性を色分けして探っていたほどです。Webに関わる書籍を40冊くらい購入し、読み漁ってがむしゃらになって覚えました。結局、その企画自体は流れてしまいましたが、スキルが身についたので、知人の日本画家の方のポートフォリオサイトを請け負ったのが、Webデザインとして最初の受託業務でした。それをきっかけに他の作家さんのWebサイトや銀座のギャラリーのイベントサイトなど10サイト程、経験しました。

Webサイト構築に関わる中で最初は中小のクライアントさんが多く、徐々に規模の大きなものをやっていきたい。影響力のあるサイト制作に携わりたいと思うようになり、制作活動に一旦区切りをつけて、前職のWeb制作会社にUIデザイナーとして転職しました。

── なぜ三井住友銀行の1人目デザイナーとしてキャリア転換をすることを決意したのでしょうか。

デジタルデザイナーとしてキャリアのスタートが遅く、同世代のデザイナーに対して勝ち目がなかったので、次にあげる3つの条件が揃っているところを探していました。

・デザイナーの能力が発揮できる環境であるかどうか
・デザイナーの能力が潜在的に必要とされているかどうか
・デザイナーが成長できる環境であるかどうか

一つ目は、デザインにすでに力を入れている事業会社やデザイン会社の場合、デジタルデザインにおいて実績のない自分が採用されるはずがありません。デザイナー比率が少ない場所であれば、デザイナーは重宝され私でも活躍できる場があるかどうかという観点です。
二つ目は、その会社が今はデザインに力を入れられていないけれど、それ以外の分野で既に強みがあり、その強みとデザインを掛け合わせることによって、新たな伸びしろがあるかどうかという観点です。
三つ目は、デザイナーとして専門スキル、経験を磨ける仲間がいるかどうか(これからつくれるかどうか)、とデザイナー以外で切磋琢磨できる仲間がいるかどうかです。

これらの条件が揃っているところが良いと思って転職先を検討していきました。

前職のWeb制作会社ではサイト構築案件を中心にUIデザインを担当していました。その後、ネット銀行に常駐していた時期もあり、その経験から「金融×デザイン」であれば、デジタルデザイナーとしてスタートが遅かった自分でも勝負できる環境があるなと思っていました。
しかし、Fintech系のスタートアップ、もしくは、ネット銀行の転職先も候補に考えていましたが、なかなかすぐに自分を活かせそうな先が見つからなかったのです。
常駐先のクライアントの環境でも様々な案件を任せてもらえるようになり、充実はしていたものの、案件の最上流から関わることができなかったので、悶々としていたところもありました。

そんな中、エージェントから三井住友銀行が新しくデザイン職を作って、デザイナーを採用するということを紹介されたのです。
当時、ネット銀行の求人はいくつかありましたが、メガバンクが中途でデザイナーを募集していることに、驚きました。
半信半疑で業務内容を確認してみると、今やっていることと大きく異なっているようには見えないし、さらには、自分の中での課題としていた、プロジェクトの最上流から関わることができるかもしれないということも記載されており、気付いた時には、すぐにエージェントに応募の意志を伝えていました。

ただ、年齢的にミドル層に入ってくるため失敗はできないので、面接時には現在の上司とデザイン職の職制の話やデザイナーの体制についてなども含めて、最終的には6度の面接で入行するまでに10か月かかりました。(もちろん今はここまでかかりません。)

あまりに長かったため、過度な期待をせず、常駐先の業務もやりがいがあり充実していたので、声をかけられたら考えよう、くらいのつもりで過ごしていました。
すると数ヶ月後に職制が整いましたので、選考を再開しますがどうしますか。と声をかけてもらい、大きな縁を感じたため、そのまま採用選考に進みました。

三井住友銀行にとって、デザイナーは必要不可欠の存在にしたい。

── 三井住友銀行にデザイナーとしてジョインされましたが、当時のデザイナーへの期待値はどのようなものでしたか。

既存のコンサルティングファームのように最上流の業務だけではなく、実際に手を動かして顧客に届けるところまでを一貫してデザイナーとして携わって欲しいという話をもらいました。

私自身も最上流工程に特化して実際のプロダクトを一切見ないままリリースされたであろう悪い例はたくさん見てきているので、理解がある上司の元、働ける期待感とまだ経験したことのないことをやっていけるかという不安も抱えながらのスタートでした。

入行当時は部内でもデザイナーが何をしてくれる人なのか、noteの記事でもデザイナーの金子が言っていますが、得体のしれない存在だったと思います。

はじめに依頼された印象的な仕事は忘年会の似顔絵クイズの手書きイラストの制作でした。たまたま美術の実技講師の経験があり、難は免れましたが、それくらい「デザイナー」=「絵が描ける人」という昔ながらの印象でした。
デザイナーは見た目を整えてくれる人という認識しか持たれてなかったのだと思います。

正しい認識がされないまま、まず行ったことは、銀行の中にデザイン職のデザイナーが居るということを認知させるために、デザインに関わる案件相談を可能な限り、すべて受けるようにしました。はじめはバナー、LP制作、チラシ、ポスター等ビジュアルをきれいにするものが多かったです。それらに取り掛かる過程で、いわゆる見た目の体裁を整えるだけでは、そのものの価値を高めることができない事案に多く出くわしました。要するに情報設計も何もなく、要素の継ぎ足し、継ぎ足しで整えられただけの状態だったのです。
それではお客さまにとって何も良くならないので、デザイナーとしては、銀行員の事情をくみ取り、一旦は要望通りに作成したものと、お客さま視点を反映した理想形のものを渡して返したり、何かしらの付加価値をつけて返したりしました。

こういった実際に手を動かすアウトプットも大事なのですが、上司への活動報告も組織に所属しているデザイナーとして、直属の上司は一番の協力者であるので、当初は1事例ずつ各デザイナーが週次で上司に報告し、インハウスデザイナーのスキルと今後やっていきたい方向性など、実績ベースで報告する機会を設けてもらいました。

その他、部の特性上、中途入行の方や、出向で来られている方、支店から異動してくる銀行員など毎月のように人が入れ替わり、転入者に向けたオリエンテーションの中でビジネスにデザインが必要な理由やインハウスデザイナーの役割、案件時のアサインのタイミングなど共有する機会を設けていきました。

── デザイン組織のミッションを教えてください。

はじめからミッションステートメントがあったわけではなく、立ち上がったばかりのデザインチームはそれぞれが各案件に携わっており、なかなかデザイナー同士の横の情報共有や目指したい方向などを議論する場がなく、それぞれが良くも悪くも自立してプロジェクトに取り組んでいるような状況に陥っていました。

そんなモヤっとしている状況が続いていたので、今年度に入り、デザイナー全員とさらには直属の上司も参加するワークショップをして、自分たちの目指す方向性や今考えていることなど、振り返りながら理想とする組織について議論を重ね、皆で作りました。

私達デザインチームのミッションはデザインの力で「最も選ばれる金融G」を創ることです。

掲げたミッションを実現するため、目指すチームの状態として以下のようなことをあげました。

そこでデザイナーはデザイン経営の中心であるべきだとアピールしました。さらに、ビジネスに対しどれだけデザインが関われるのかを伝え、自分たちがコアとなる部分であるということをまずチームの中で築き、認識の共有をおこないました。

── デザイナーが三井住友銀行で価値を発揮した事例を教えてください。

デザイナーの堀がデザイン監修したもので、2019年3月に三井住友銀行のアプリをフルリニューアルしました。今までの活動と大きく違い、最初からデザイナーがアサインされ、プロジェクトが進められました。インハウスデザイナーが関わったことで、課題や改善案をどう使用するのかストーリーを作成し、画面デザインまで反映する事ができました。それにより「企画⇔デザイン⇔開発の認識相違」のズレを解消し、コミュニケーションをスムーズにすることができました。フローとしては、HCD(人間中心設計)のプロセスを取り入れ、カスタマージャーニーを作り、ペルソナを立て、約500人のユーザーテストを行いました。

その結果、グッドデザイン賞を受賞することができ、行内でデザインチーム自体の認知が広まりました。それがきっかけとなり私達自身働きやすくなったと実感しています。

銀行利用者とクレジットカード利用者それぞれに向けたアプリが丁寧に作られている。複雑になりがちなアプリの諸機能をわかりやすく整理し、主要機能についてはより少ないタップ数で利用できるようにデザインしている。アプリを統合せずに2つに分けている点も合理的である一方で、連携はスムーズであり、色彩やレイアウトを踏襲する等、統一感も確保していること等が評価された。
https://www.g-mark.org/award/describe/49632

── デザイナーが入行したことで、組織にどんな影響を与えたとお考えでしょうか。

単純なところでは、銀行員がこれまで以上にお客さま視点を持つようになってきたと思います。もう一つは決裁をとる前に最終形に近い形の動くもの(プロトタイプ)で検討ができるようになったことです。

これまでは、定量的なデータとロジックが繋がっていれば良いとされていました。実際にモックなどを作成して、それらを上司に確認してもらえるような状況を銀行員だけで出来る状態ではありませんでした。そのため、モック作成の決裁が必要になって外部に協力を仰がなければならず、どうしても時間がかかり、後戻りがしづらい状況だったのが、事前に行内で検討できるようになってきたことは大きな変化だと思います。
その結果今では、非デザイナーである銀行員がデザインの力を実感し、企画前の段階で我々インハウスのデザイナーに声をかけてもらえるようになってきています。

これまで銀行はBTCでいうところのビジネスがメインでテクノロジーもシステム部門やグループ会社にもシステムを担当するところはありました。クリエイティブ(デザイン)はというと100%外注でした。それが、顧客影響の高い重要なプロジェクトからではありますが、少しずつデザイナーが入ることができ始めているので、それは良い影響になっています。

これにより、デザイナーの採用を強化する動きになっています。ただし、銀行内には約3万人の行員が所属していて、その中でさえ、まだ私たちデザイナーの存在を知らない方もいます。そのため、デザインの価値をよりわかりやすい形で伝えていけるような活動にも引き続き力を入れていきたいと考えています。

── 三井住友銀行のデザイン組織が今後目指すもの、共に働きたい人物像について教えてください。

三井住友銀行にとって、デザイナーはなくてはならない存在にしたいです。

直近では、デザインチームをさらに拡大していきたいと考えています。私達は銀行という特殊な業界で他の企業ではなかなかないような資産を持っているので、リアルとネットを繋げたサービスを作ることができる人と一緒に働きたいです。自分の頭で課題を見つけ、しっかり考え、問題提起ができ、心を揺さぶるようなデザインができるデザイナーを待っています。

── 読者に向けてメッセージをお願いします。

私の場合は、ずいぶん遠回りをしてしまいました。自分の気持ちに正直に選択してきたためです。だから、キャリアの最初の頃は、ひたすら自分と向き合い作り続けたこともあります。しかし、大きな転換となったのは、自分の中から何かを生み出すよりも、社会の中で自分にはなにができるかという役割について思考を切り替えたとき、はじめてデザイナーとしての気づきがありました。だからこそ、多くの人の生活や人生に関わる大事な役割ができる三井住友銀行でデザイナーをすることの大きな意味があると思っています。

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