「あの頃は銀行だった」と言われる未来のために。デザイン組織を構築する三菱UFJ信託銀行の変革
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インタビュー

「あの頃は銀行だった」と言われる未来のために。デザイン組織を構築する三菱UFJ信託銀行の変革

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創業92年の歴史を持つ三菱UFJ信託銀行では、経営企画部 FinTech推進室が中心となって社内でのデザイン思考の啓発、デザイン組織の構築を進めています。今回はReDesigner経由で1人目のデザイナーとして活躍する伊藤 梨恵さんを採用した、FinTech推進室長※の伊藤 昌彦さんと調査役補の齊藤 達哉さんにお話を伺いました。
(※3月7日 取材時点の役職名、以下同様)

「昔は銀行だったんですね」と言われたい、そう語る伊藤室長がデザインを必要とする背景や、16件以上の新規事業のプロダクトオーナーを務める齊藤さんが感じるデザイナーの影響力とは。伝統ある金融機関に訪れている変革を紐解きます。

銀行員がデザインスキルを身につける必要がある

── 創業92年以来、初めてデザイナーを迎え入れたFinTech推進室が、どのような経緯で発足されたのか教えてください。

伊藤さん: まず、信託銀行とはお客様の信託財産をお預かりして、管理・運用する金融機関です。信託財産とは金銭や有価証券などを指し、私どもは信託財産の管理・運用のほかに、不動産仲介業務、株主管理なども行っております。

もともと我々が扱う信託財産の多くは株券や債券など、紙として形があるものでしたが、現在は多くの資産が流通しやすい形に電子化されています。また、はじめからデジタルの形で価値をもつ「デジタル資産」も登場し、その中でも「トークン」は、「仮想通貨」や「暗号資産」などとも呼ばれています。金融業界でデジタルトランスフォーメーションが進むことで、我々のような金融機関を仲介せずに、お客様自身が信託財産を管理できるようになりましたし、競合も現れ始めました。そうした著しい変化を感じて「ここで遅れをとってはいけない」という想いから、FinTech推進室が設立されました。

FinTech推進室長 伊藤さん

FinTech推進室を立ち上げ、まず着手したことが「既存事業のデジタル化」「デジタル領域における新規事業の開発」の2つでした。このとき考えていたのが、今やっていることをシステムプログラムに落とすだけではなく、全く異なるプロセスに置き換えることで最新技術が業務プロセスにマッチし、本当の意味での変革になるということです。そこで、既存事業では「もっとよくする、速くする」をミッションに掲げ既存事業の変革に取り組んでいます。

── 新規事業として開発しているサービスはどんなものですか。

齊藤さん:
現在、新規事業は16件ほど同時に進んでいます。 第一弾として2018年11月に実証実験をしたのが、情報信託銀行です。仕組みをわかりやすくご説明すると、現在みなさんは色んな情報サービスを使っていて、各所にデータが散っている状態だと思いますが、情報信託の仕組みを用いると、それを自分のアプリに一箇所に集めることが可能になります。例えば歩行データや資産データ、行動履歴データなどのパーソナルデータですね。アプリの利用者に対して「こんな目的でこの企業がデータを探しています。提供するとこんなリターンがありますよ」とオファーが来るので、提供するデータとリターンが見合っていると判断したら、応諾する。すると企業はデータを得られて、みなさんにはリターンが返ってくるという仕組みです。この情報信託の仕組みは実証実験を経て、現在サービスインに向けて開発をしています。

FinTech推進室 調査役補 齊藤さん

デザインは言葉として媒介するもの

── 次に、三菱UFJ信託銀行にデザイナーが必要だと考えられたきっかけについて教えてください。

伊藤さん:
デザイナーが必要だと考えた原点にあるのが、原研哉さんの著書「デザインのデザイン」です。2004年にこの本に出会って、いい本だなとは思っていたのですが、齊藤と仕事をするようになった頃、ふと読み返して驚きました。「なんていいことが書いてあるんだろう」と思ったんです。

この本には、顧客の本音に寄り添った商品は売れたとしても顧客のレベルを超えない。すると文化自体が怠惰な方向に向かっていくと書かれていました。そんな流れの中で遥か上を目指して「どうすればもっと良いサービスになるんだろう」と考えていくには、デザインの力が必要だと思ったんです。これは大きなきっかけでした。

私は、デザインを言葉と捉えています。見えないものを見えるように、分からないものを分かるようにする媒介としてかなり高いレベルにあるスキルで、だから課題解決の手段にもなっている。「日本語」や「英語」と同じような媒介手段。それがデザインなんだと考えています。

関連記事:「イノベーターを目指して働く」三菱UFJ信託銀行 1人目の越境デザイナー 伊藤 梨恵さんの挑戦

私が思い描いていた金融機関の「堅い」イメージが大きく変わり始めていることを実感したんです。そう感じた理由のひとつに、室長 伊藤の言葉があります。伊藤は私に「これからのデザイナーは言葉が大事だ」と話してくれました。 大手金融機関の室長からそんな意表を突いた一言が出てきて、いい意味で裏切られたことが印象的でした。その一言があったから1人目のデザイナーとして、飛び込んでみようと思えたんです。

齊藤さん: 私が特にデザインの力が必要だと思ったのが、新規事業の開発です。我々だけでワークショップやブレストもやってはみたものの、銀行員の考え方だけでは新しいアイデアが出てきませんでした。伊藤はこのようにデザインへの理解を持ってくれていたので、銀行員にデザイン思考をインストールするべく、Goodpatchさんにデザイン思考のワークショップを実施してもらったのが2017年9月のことでした。

その当時、社内で企画が進んでいた新規事業は2件。どんどん数を増やしていく必要があったので、ワークショップで社員の意識を醸成するだけではスピードが追いつかないのが現状でした。そして、既にデザインスキルを持つデザイナーをチームに迎え入れる動きが加速したのが2018年の夏で、10月にはReDesigner経由で伊藤梨恵が創業92年以来初のデザイナーとして入社しました。

(先日開催されたUX Designers Meetupで撮影:左からGoodpatch 野田、齊藤さん、伊藤梨恵さん、DeNA 小原さん)

デザインを組織に落とし込むまでのプロセス

── デザイナーが参画した事実も含め、社内でどのようにデザインへの理解を促進していったのですか。

齊藤さん: デザインの浸透については、長期的なロードマップで構想しています。 まずはデザイン思考のプロセスを実際に体験してもらい、感化される人を増やしていくことが重要だと思っています。Goodpatchさんとのワークショップはこれまでに7回開催してきました。一度のワークショップに参加する人数は約24名なので、単純計算で150人以上の銀行員がデザイン思考に触れています。ただ、全社員でいうと2%なので、まだまだではあります。デザインが定着していない組織においては、まず感化されている母集団を増やしていくことが最初のステップだと思います。

もちろん、感化されただけでは実務に落ちてこないので、吸収したことを実践できる機会と体制も考えています。機会づくりはまだまだこれからですが、まずは新規事業を世に出し、規模を拡大して実績を作りたいです。実績が増えていくと新しいメンバーが迎えられたり、インハウスデザイナーが生まれるという流れが出来ていきますからね。

── ワークショップを受ける前と後で、変化はありましたか。

伊藤さん: 社員の変化は目に見えて伝わってきます。社員から「これは誰を喜ばせるためですか」という言葉が出るようになりましたね。会社の変化につながる大きな波とまでは言えませんが、着実に変わってきています。

齊藤さん: デザインの力によって、我々のような部署ごとにセグメントされた組織もワンチームになれることを感じました。企画、開発、事務、営業などさまざまなセグメントのメンバーが「お客様を喜ばせる」という共通の体験のために一つになると、たった一日でのワークショップだけでも影響が大きいなと思います。実務で同じプロセスでコラボレーションできたら、すごくいいものが作れるチームになれると思います。

デザイナーがビジネスの現場に与える影響力

── 実際にデザイナーの伊藤梨恵さんが参画されて、いかがですか。

齊藤さん: 常に近くにいると全く違いますね。私は現在、FinTech推進室で新規事業のプロダクトオーナー(以下、PO)としていくつかのプロジェクトを見ているのですが、答えがない新規事業は迷うことが多いんです。迷っていると、お客様よりもビジネス側の視点、つまり左脳寄りな発想に引き寄せられがちになります。

梨恵さんが来てくれたことで、私はPOとしての右脳を発揮できるようになりました。一人で右脳・左脳を行き来することはいきなりは不可能なので、デザイナーとして右脳型の梨恵さんが入ってくれたことで、やっとチームとしてバランスが取れたと感じています。これは大きな変化でした。

例えばプロダクト・バックログを起こすとき、企画と開発でのギャップが起こりやすいところでも、デザイナーがいることで翻訳できます。「こうすると実装面は難しいけど、ビジネス側のオーダーとしてここまではやりたいね」と、相互にちょうどいいところに着地させる動きができてるなと感じます。今までは私がその役割も担っていたのですが、開発時の実装面を理解しきれていない弱さがあったので、企画から開発まで一気通貫で分かるデザイナーがいてくれることでPOとしての機能を果たしやすくなったと思います。

(先日開催されたUX Designers Meetupで撮影:三菱UFJ信託銀行の新規事業立ち上げにおけるデザイナーの関わり方を話す齊藤さん、伊藤梨恵さん)

── 伊藤室長から見て、デザイナーが入社したことでの影響はありましたか。

伊藤さん: デザイナーとしての新しい視座を持ち、言語化・可視化するスキルが周囲を啓発する点が最も大きな影響です。あらゆる場面で、銀行員とは違う常識を持っています。たとえば、新しいコンセプトや合意形成をするときの文書に手描きの絵を添えていたり、そんなところから小さな変化が伝播していっているのかなと思います。貴重な変化ですね。

齊藤さん: 企画書のつくり方が銀行の人間とはまったく違うんです。信託銀行が内製でものづくりに近づけるようになったことは大きな一歩だと思います。手描きの絵はまさにいい例ですが「銀行員がデザイナーとしてのアウトプットを出している」という理想の状態に一気に近づくことができたと思います。

一番大きいのは、チームに多様性が生まれたことです。新しいものは、多様性を持ったチームから生まれると思っています。現在我々はプロジェクトルームを作って同じ空間で開発を進めているのですが、その空間に銀行員以外にデザイナーがいることで、色んなものの考え方が生まれるんです。これがチームビルディングにもポジティブな影響を与えてくれています。そんな変化を感じた上で、高度なスキルを持っていることよりも、チームワークを重視するスタンスが重要だと気づきました。チームとして補完し合って一定のアウトプットを出し続けることが重要なので、個と個ではなく、お互いに越境することが求められます。越境していく過程で銀行員たるデザイナー、デザイナーたる銀行員が今後も生まれていくのだろうなと思います。

関連記事:ビジネスを推進するUXデザイナーの働き方とは?UX Designers Meetup

── デザイナーと接点がなかった社員の皆さんは、最初どんな反応をされていましたか。

齊藤さん: 今はデザイナーという職種への理解が社員によって異なる過渡期かなと思います。 まず、デザインにまだ理解が浅い組織において「デザイナー」と名乗りすぎないほうがいいと私は考えています。「デザイン」と聞くと表層のデザインを連想する方も多いので、デザイナーは画面イメージを作るなどの目に見える部分を整える人と思われてしまいます。 私たちは新しいビジネスを作ったり、既存ビジネスを大きく成長させるためにデザインの力を必要としていて、デザイナーにもそこを求めています。この認識が社内で広がるまでは、デザイナーの梨恵さんと現場の人間との間に翻訳できる人間、例えば私が入ることで、相互の誤認を防ぐことができると思っています。

伊藤さん: 最初、人事部の意識としては「絵描きが入ってくる」くらいの意識だったと思います。これはデザイナーの皆さんに失礼だと思うのですが、髪の毛が奇抜な色で、ジーンズを履いているようなステレオタイプなイメージを持っていたので、拍子抜けしたようです。デザイナーはビジネスパーソンとなんら変わりはありません。デザイン組織が拡大していく中で、三菱UFJ信託銀行全体にそんな認識が広まってほしいと思います。

だからこそ、デザイナーには自分の守備範囲や可能性を限定しないことを求めます。誰がシュートを打ってもゴールを守っても勝てる、プロスポーツ集団のような組織を作っていきたいんです。銀行でも同じで、デザイナーが企画書を書いて、会議の進行をしていいんです。「デザインスキルを持った銀行の企画担当者」になってくれることを期待しています。

── 今後デザイン組織を拡大していきながら、三菱UFJ信託銀行の事業や組織をどのように変えていきたいか教えてください。

齊藤さん: 個人としての一意見は、何か課題が生まれた時にまず相談される組織でいたいと日々考えています。信託という手段を使って課題解決できた実績を世の中に増やして、今は信託と遠いところにいるお客様が「もしかして、これも三菱UFJ信託銀行に相談すると解決できるのかな」と可能性を感じていただける状態がひとつのゴールだと思います。そのゴールに近づくために、常に価値を発揮し続けなくてはならないので、信託×デザインの実績を1年に1件は出していきたいですね。

伊藤さん: あらゆることに挑戦して、解決できる課題をどんどん増やしていきたいです。その結果、10年、20年先の未来で「御社は昔、銀行だったんですね」と言われるようになりたいです。その頃にはFinTech推進室はなくなっているか、形を変えているかもしれません。本来、新しい技術を推進するために、社内を啓発しなくてはならない状態は長くは続くべきではないと思います。デザイナーはその時社会で解決するべき課題のいちばん近くにいる存在であってほしいですし、我々もそんな組織になりたいと思っています。

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