
ReDesigner Magazineは、デザイナーのキャリアにフォーカスしたマガジンです。さまざまな組織で活躍するデザイナーのインタビューや、最新のデザイナー事情についてご紹介します。 今回お話を伺ったのは、デザイナーの池田拓司さん。池田さんは、ニフティ株式会社、はてな株式会社を経てクックパッド株式会社へ入社し、ユーザーファースト推進部長・執行役を務めていました。前編では、池田さんの多摩美術大学での学生時代から、ニフティに新卒入社した経緯、初めて転職したはてなでの取り組みなどを伺いました。今回は、クックパッドに入社してからの執行役としての経験や、デザイナーの定義に踏み込みます。

デザイナーというものが定義されていませんでした。僕が入社したときは「検索する」「投稿する」など、クックパッドのユーザー体験ごとに事業部が作られていて、事業部によってデザイナーがいたりいなかったりしました。そこで、僕はまずデザイナーという定義ができるように、横串で集まる機会を増やしてみました。
横串を率いることはとてもパワーを使うことだと思っているのですが、はてなで一緒に働いていた舘野さん(クックパッド元CTO)が厳しい言葉を時折かけてくれたり周りのバックアップがとても支えになって、そういう人の存在がとてもありがたかったです。
そうですね。ただ、クックパッドは自社を「テクノロジーカンパニー」という認識が社内にちゃんとあり、デザイナーもそれを理解した上で入社していたと思っています。
当初はデザイナーでもプログラムやコードを書く人が多かったですが、僕が在籍した期間の最後の方では、規模も大きくなって、そういう人だけではない形の組織にしていきました。その後も、さまざまな武器を持ったデザイナーが次々と入社してきていましたね。
https://techlife.cookpad.com/entry/2016/07/15/092518
今でも、自分自身が経営者になりたいわけではないんです。ただ、経営者が作ろうとしているプロダクトをユーザーにちゃんと届く形にすることに関しては、執着心を持っていました。そして、そこに責任を持ってやってきたことは、僕のキャリアにとっても影響が大きかったと思います。
本当に急なことでした。「来年から執行役にするので、そのつもりでいてください」と突然言われました。
マネジメントの立場になることに関しては、特にネガティブにはならなかったです。部長としてマネジメントを経験していたときから、仕組みを作ってマネージすることは割と好きかもしれないなとは思っていたんですよね。ただ、執行役となると、自分が手を動かす量が減ることは覚悟しなきゃな、と思っていました。
意識は明確に変わりました。まずは経営を自分ごととして理解するために、本をたくさん買って勉強しましたね。そもそもそれがどういうことなのか全然ピンと来てなかったので、たとえば基本的な話として、執行役員と執行役の違い(注1)や、委員会設置会社とは何なのかというところから、ひと通り勉強しました。執行役になるということは、一度会社を辞めてから、改めて執行役として雇われるということなので。
注1…執行役は、取締役会の決議によって選任されますが、取締役を兼ねることもできます。それ故、執行役の身分は、会社との関係では委任に関する規定に従うことになっています。 一方、執行役員は、取締役会の活性化と意思決定の迅速化という経営の効率化、あるいは監督機能の強化の観点から取締役会の改革の一環として導入されたもので、その存在に会社法の根拠があるわけではありません。 出典:執行役と執行役員
あとは、責任がより明確になりました。たとえば、クックパッドのユーザー体験をよくすることは投稿数をあげることに直結するし、ユーザー数を増やすためにユーザー体験を良くする必要がある。だから、数字の責任を持たなければならないんです。あとは上場していたので、株主総会にも出ました。
経営視点を持つことで、プレイヤーの視点からは見えにくかった世界が広がって、今まで考えなかったようなことも考えるようになりました。僕を経営レイヤーに引き上げてくれた人たちから、そういう視点を教わる機会がたくさんありましたね。ありがたいことです。
はい。穐田さんが代表に就任されてすぐの頃に、佐野さんと進めていたロゴのリニューアルについて注意を促されたことはありました。いま思えば当たり前のことなのですが。でもそのあと、穐田さんから「グローバル化に向けてデザイン的な視点で何が必要?ロゴはどういう風にするべき?」と聞いてもらえて一緒に作れたことが嬉しかったです。
当時言われたことで、印象的だったのは「権限と責任」があります。僕に権限もありましたが、その分責任もついてくることをよく自覚させられました。

画像:2014年にリニューアルしたロゴ。池田さんと共にデザインを担当したのは、現トレタCDOの上ノ郷谷さん。デザインに込めた思いや経緯はこちら
今は自分の会社をやりつつ、事業会社の取締役も務めています。会社を作った理由は、これまで事業会社をしっかり経験したので、今度は新しい形で働いてみたいと思ったからです。僕は「右腕」になるタイプというか、誰と何をやるのかが大事で、キャリアを選択する際の大きなポイントになっているんです。その一方で、誰かとセットではない自分だけの実力値や、再現性を求められることにトライしてみたい気持ちがあったからです。
僕自身、人に合わせられる性格なんだと思います。 普段仕事をしていると、はてなの近藤さんはサービスエンジニア、クックパッドの佐野さんはUXデザイナー、穐田さんは経営者という感じで、三者三様でした。「何を言おうとしているんだろう?」ということを紐解いて、導いていくことが好きなんです。導いた答えによって、ユーザー・経営者どちらからも良い反応があった時は、やりがいを感じられますね。
実際に経験してみると、思っていた通りにはうまくいかず、色々な判断をしなければいけない場面が多いなと思います。 色んなジャンルの仕事をやることになるので、ポリシーもないとできない仕事だと感じています。クライアントのビジョンや価値をどう考え形にするかは事業会社と共通する点だと思いますが、雇われ仕事としてただ作業を受け流すだけの価値に止まらないようにも強く意識しています。クライアントワークは、ユーザー、経営者、メンバーなど多角的な視点でプロジェクトを見ることができて、自分の学びになっていますね。これまで事業会社をずっとやってきたからこそできる、自分らしいスタイルをこれから築きたいと思っています。

自分の経験を踏まえて考えると、一番大事なのは、ユーザーなり経営者なり、誰かを見つめてちゃんとデザインすることだと思います。そして、何かを形にするためには自分の理想像やビジョンが必要なので、それを語って推進できるリーダーシップがあるといいですね。そういうデザイナーが、まだあまりいないように感じています。
デザイナーの定義は時代背景によっても変わりますが、いつどんなレイヤーにいても「何かを形にする仕事」であることは変わらないと思います。 経営者の頭の中から要点をまとめて「そうそう、それがやりたかったんだよ」という方向に導くことが大切ですね。そういったことを何度か繰り返すうちに、経営者も僕を信頼してくれて、デザイナーの価値を分かってくれるようになりました。徐々に、彼らの構想を当てられる自信もついてくるようになりましたね。
デザイナーは、ふんわりした状態のものを形にしていきながら、メンバーに納得感が持てるように共有して、ユーザーにも届けていかなければいけないんです。
あと、僕は一つのことに長くコミットするタイプなので、何か一つ武器を持つといいと思います。そして、どんな仲間と一緒に仕事をするのかも大事に思っています。
デザイナーとして、3人の経営者と並走してきた池田さん。その目線は経営者だけではなく、チームやユーザーにも向けられていました。池田さんのように、経営者からの信頼を得ることは、簡単なことではありません。だからこそデザイナーは自分だけの武器を持つことや、武器を手に入れるために目の前のことにコミットすることが大切なのです。
デザインをビジネスで活用するために、経営層の意識改革が叫ばれることは増えましたが、デザイナー自身も変わるべき時が来ています。池田さんのインタビューを通して、視点を高く、広げるために何ができるのか知ることができたのではないでしょうか。
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